日本電産にとって、駆動用モーターは将来の根幹をなす製品だ。日本電産では、21年3月期に売上高2兆円をめざす中期経営計画が進行中。その計画では、車載モーター事業は売上高3000億円を6000億円に倍増、M&A(企業の合併・買収)を含めれば1兆円に伸ばす成長戦略の柱となっている。そして同事業の最大の成長株が、駆動用モーターなのだ。

 もっとも、駆動用モーターへの集中投資はハイリスク・ハイリターンである。

 最大のリスクは、EVの市場拡大に予想以上に時間が掛かるとの公算が大きいことだ。EV普及のネックであるバッテリーは「素材の供給不足などのため依然として価格が高く、補助金などで生み出された需要を除けば、限られた市場」(日系完成車メーカー幹部)。EVは、中国政府の電動化目標や米国政府の環境政策に左右される“官製商材”である。

 EV向けがダメなら代わりにHV向けモーターに追い風が吹くとみられるが、いかんせんHV向けの価格がEV向けに比べて安く、販売数量の割に利益が伸びない。今回の積極投資は吉と出るか凶と出るか。いよいよ、永守会長の神通力が試されている。

 そしてもう一つ、日本電産には重大なリスクが横たわっている。独特の投資戦略に代表される“永守流経営”の伝承に黄信号が灯っているからだ。日本電産にとっては古くて新しい問題──、カリスマ創業者である永守会長の後継者問題である。

 昨年6月に永守会長から「社長職」を受け継いだ吉本浩之氏は、その後、米国に渡り、家電・商業・産業用モーター事業などの改革を行なっている。永守会長は吉本社長ついて、「(同事業を改革して)利益を上げて凱旋門をくぐればいい。(同事業の利益率が)15%になったら帰ってこいと言っている。非常にシンプルだ」と檄を飛ばしつつも、権限移譲に向けた“次のステップ”を示した。

 それでも、CEOの引き継ぎ時期については「やっぱり私の経営力を学ぶには3~5年掛かるな」と煙に巻いている。

 積極投資リスクと後継者問題。日本電産が重大な岐路に立たされていることだけは間違いない。

変更 記事初出時より、写真をより適切なものに変更しました。(2019年10月28日 12:30 ダイヤモンド編集部)