なぜ行政手続きは「非生産的」なのか?

 行政手続きには、種類によってさまざまな本人確認手段が用いられる。代表的なのはハンコ、免許証、保険証、住民票、戸籍謄本などだ。これらの多くは、「その人自身が、その手続きをしている」ことを確認するために、役所が要求しているものだ。

 しかし、ハンコは他人が押すこともできて、なりすましが可能である。しかも、ハンコの印影は三文判などであれば、個人を特定することもできない。技術的に偽造することも簡単だ。

 また、本人確認によく使われる運転免許証は、本来自動車に乗れることを証明するものであり、ほかの目的での本人確認を意図したものではなく、持っていない人もいる。保険証も同様である。紙の住民票、戸籍謄本なども改ざんが可能だ。

 多くの行政手続きでは、本人確認のためにこれらの書類を複数組み合わせて要求することで、確からしさを高めるといったことがなされている。しかし、これこそが行政手続きの本人確認を煩雑にしている。そして、これらの書類を所管しているのがバラバラの省庁や自治体であることが、さらに煩雑さを増している。

 実は、マイナンバーカードは本来こうした課題を解決するために設けられたものといえる。国民全員がカード1つでさまざまな手続きの本人確認ができれば、前述のような書類は不要だ。

 オンラインで本人確認を行い、行政手続きができれば、時間も手間も大幅に削減できる。本人が手続きを行ったことが証明されるのは、カードをリーダーに当て、パスワードで認証した場合だけなので、ハンコや書面による本人確認と比べてなりすましや偽造・改ざん対策という点で優位性がある。

エストニアではワンクリックで税務申告が完了

 すでに、行政デジタル化の先進国では、デジタルIDの活用を通じて本人確認の方法を一本化し、データを関連づけることで手続きの簡素化を実現、市民が利用しやすい公共サービスを提供している。

 例えば、エストニアではe-IDカードというIDカードで結婚・離婚・土地取引以外の全ての行政手続きにおける本人確認を行っている。銀行口座などのデータもe-IDにひも付けることが可能であり、結果として、税務申告は内容確認後のワンクリックだけで、3分から5分で完了する。同様に、企業の設立手続きも数十分から数時間で完了する。

 エストニアがなぜデジタル・ガバメント先進国と呼ばれるに至ったかというと、話は旧ソ連時代にさかのぼる。当時、エストニアには暗号解読の部隊がいて、IT人材が集中していた。ソ連からの独立に際して、資源に乏しい小国であるエストニアは、政府を効率的に運営し、またソ連のような外的脅威から国民を守り、国家を維持するために、技術力を駆使してオンライン上に国家機能を構築しようと考えた。

 首相も含めた政府の要職がIT専門家であったためにこうした構想が描かれ、実現したのだ。