「世界一美味しいコーヒー」とは、あなたの好みの味に合わせた1杯のこと。しかし、コーヒーの味はとても複雑だ。コーヒーの味を形作っているものは何か、何を調整すれば自分好みの味にすることができるのか。「人生最高の1杯」を淹れるために、まずは味わいに影響を与える主な要素を考えよう。テレビで話題沸騰!日本人唯一のワールド・バリスタ・チャンピオンである井崎英典氏の著書『ワールド・バリスタ・チャンピオンが教える 世界一美味しいコーヒーの淹れ方』から、その内容の一部を紹介する(撮影:京嶋良太)。

バリスタが伝授! 自分好みの美味しいコーヒーを淹れる6つのポイント第15代ワールド・バリスタ・チャンピオンの井崎英典氏

「最高の1杯」はどう淹れる?

世界一美味しい1杯に正解はありません。抽出の分野における世界最高峰の大会でもある、ワールド・バリスタ・チャンピオンシップやワールド・ブリューワーズ・カップにおいても、毎年抽出のトレンドは変わっていますし、数年前に「素晴らしい!」とされていた味わいでさえ、現在では少し違和感を覚えることも多々あります。

例えば、国際的なドリップコーヒーのトレンドは、2016年までできるだけ少ない粉を使用して、細かく挽いたコーヒーを使用するものでした。しかし、ここ数年は微粉による「過抽出」を避けるため、粗めに挽いて少し多めのコーヒーを使うというように、我々コーヒープロフェッショナルの「正解」も頻繁にアップデートされています。

また、コーヒーは究極の嗜好品ですので、自身の抽出や味わいにこだわりのある人もたくさんいます。例えば、私にとって極端な深煎りは「焦げ」と同義ですので、許容できない味わいですが、「この焦げた感じが良いのだ」と言う人も当然います。

私の常識からは考えられないような味わいを「正解」としていることも多々あるのですが、それを間違っていると頭ごなしに否定することはできません。

私は世界中でコーヒーの抽出を教える機会があるのですが、美味しさの定義とは文化背景や食生活にも影響を受けますし、それによって「正解」は変わるものです。

ミクロに観察すると、家庭環境だったり、憧れの人の飲んでいたコーヒーを無意識に好きになっていたりと、正解がさまざまな形で存在します。だからこそ、「最高の1杯」に正解はないと思うのです。

私は幸運にも世界中で素晴らしいコーヒーを飲む機会に恵まれてきました。生産国の品評会で1位を獲得したコーヒー、ワールド・バリスタ・チャンピオンシップのファイナリストたちが淹れた究極の1杯、世界で最も高額なコーヒー、世界に3キロしか存在しない超希少ロット、通常は手に入らない極レア品種など、驚くほど希少なコーヒーの数々を味わい尽くしてきました。

コーヒーとは思えないエキゾチックな香り、とろけるような甘さ、透き通った綺麗な後口……言葉では形容できないほど、それらのコーヒーは素晴らしく、驚きに溢れた味わいい」だと思います。

本書は「世界一美味しいコーヒーの淹れ方」を謳っているわけですから、品質的な正解とは何か示した上で、究極の「自分好みの味わい」を探り当てることがゴールです。

本書は品質や抽出における正しい基準を示した上で、自分好みの味わいを探り当てるための「コンパス」のように機能します。あなたにとっての「自分好みの最高の1杯」を探り当てていきましょう。