たとえば、会議では「○○弁護士が本件は大丈夫と言っています」と報告された内容が、正確には「Xを前提にYとZという予備的な対応をした場合にのみ、問題になる可能性はかなり下がります」だった……というのはよくある話だ。報告者は、上位者がどのような報告を喜ぶかを知っているから、専門家から聞いたことを巧みに読み替え、言い換えるのである。

 さらに悪いことに、上位者はその専門家が自分の意に沿わずブレーキをかけるような提案を繰り返すならば、「あれは駄目だ」と言ってはばからず、より自分の意にかなった発言をする専門家に代えてしまう。上位者の意向に沿う提案をする専門家と、上位者の意向に沿う報告者のダブルの効果で、問題のある意思決定は専門家によっては修正されず、むしろ正当化の手段として容易にまかり通るのである。

(3)面従腹背

 専門家チェックもくぐり抜け、会議でも決まってしまった以上は、そのプロジェクトをやらざるを得なくなる。しかし、以前にもこの連載「絶対に失敗するプロジェクトの担当に!逃げ切るための5つの黒戦術」で似たようなことを書いたが、駄目な意思決定、問題あるプロジェクトから逃げ切る方法もある。

 一番効果的なのは、実務レベルに落とす段階で実質的なサボタージュに訴えるという手段である。ところが、最近はこの方法も難しい。企業では目標管理制度や KPIを導入しているため、そのプロジェクトの遂行が当人の必達の業績評価基準に入ってしまっていて、それをやらないと人事考課も悪くなる。そうすると昇進昇級の停滞に直結してしまうのである。ゆえに、ここでもプロジェクトが止まることはなく、問題案件は実行されてしまう。

(4)テスト的に実施

 本格的実施の前にあくまで「テスト」という位置づけでやってみて、失敗という実績を作ってやめさせるという方法もある。テスト的に販売方法を試すなどがこれにあたるが、あくまでテストとして実施しても、昨今はそれがSNSなどであっという間に広がり、こちらは仮のつもりでも、世の中からは仮と認識してもらえない。テストであろうが本番であろうが、結局、世の中に出てしまうという意味では止められないのと同じである。