おしっこが語る歴史もある

本村:排泄物を「集める」のって、かなりたいへんで、高度なんです。そういえば、うんこではないですが、ポンペイにはおしっこを集める場所がありました。染物を作るとき、ある段階でおしっこを入れると、色がよく染まるんですよ。

本郷:おしっこは、日本史でも重要な役割を果たしています。鉄砲なんかで使う黒色火薬を作るには、木炭と硫黄と硝石が必要なんだけど、日本ではこの「硝石」が手に入らなかった。

本村:だからヨーロッパから輸入していたんですよね。

本郷:そう、硝石っていうのは、ジメジメしたところの土にいろんなものを混ぜて、定期的におしっこをかけて、精製するとできるんです。日本の戦国時代の人もこの作り方は知ってたんだけど、肝心のジメジメした場所が日本にはなかった。

――えー! そんな理由で輸入せざるを得なかったんですか。

本郷:そうなんです。だから武田信玄や上杉謙信は鉄砲の存在を早くから知っていたと言う人もいるんだけど、知っていたってさ、大量に導入できないわけですよ。だから、堺を通して貿易しなきゃいけない。そういうことで言うと、うんこ・おしっこも、歴史の動きに関係しているのかもしれないね。

ここでさらに、話は「におい」の問題へと発展していく。

本郷:ところで本村先生、ヨーロッパって「におい」への対策って、どうしていたんですか? だってほら、そのへんに落ちてたりするわけだから、当然においますよね。

本村:それは香水でしょう。日本でも、お香を焚いたりするわけでしょ。だからヨーロッパでは香水が発展したんだと思います。

本郷:やっぱりそうなんだな。平安時代はローマみたいに大浴場があったわけじゃないから、貴族のお姫さまもお風呂に入っていなかった。髪の毛なんて一生切らないし、1ヵ月に1回しか洗わないから。やっぱり、日本でもにおい問題はあったでしょうね。

――隠しきれるものなんですかね。

本郷:お香は基本的に、消臭剤だからね。お香の匂いっていうのは、5種類のにおいが中心になってできている。といっても、味みたいに「甘い」とか「しょっぱい」といった大きな違いがあるわけじゃなくて、どれも沈んだにおいというか、鎮静系なんだよね。あと、当時の人はわりと草食だったから、そこまで体臭もきつくなかったかもしれない。