遠く離れた一人暮らしの親を案じている人に、知っておいてほしいこと松嶋 大(まつしま・だい)
岩手県盛岡市出身。仙北小、仙北中、盛岡一高を経て2000年、岩手医科大学医学部卒業。同年、自治医科大学地域医療学教室に入局。2009年、自治医科大学大学院を卒業。全国各地での勤務を経て、2015年4月に診療所を開設。現在、岩手県盛岡市仙北町で「なないろのとびら診療所」を運営している。総合診療をベースに認知症診療と在宅医療に集中する、自称「患者バカ町医者」。
なないとのとびら診療所:https://kotonoha-group.co.jp/clinic

松嶋:私がやっていることは、1にも2にも診療です。その診療で、綺麗事に聞こえるかもしれないですが、出会った患者さんが必要だと思うことを、誰もやっていなかったら自分で起業する、ただそれだけです。
 そうしたら芋づる式に、カフェをやったり、デイサービスをやったり……ということです。すごくカッコよくいうと、「患者さんが行って笑顔を見せてくれるようなデイサービスを自分で作ろう」という感じでした。

後閑:患者ファーストですね。その行動力が素晴らしいです。
 今回は認知症の親を支えるご家族に役立つお話を聞きたいので、松嶋先生が診ている認知症の親を支えるご家族で、印象に残る事例はありますか?
 一人暮らしの認知症の親がいる方はたくさんいると思います。そんな一人暮らしの親にこれから起こりうることや、しておいたほうがいい準備というものが伝えられたらと思うのですが、いかがでしょうか?

松嶋:それでしたら、お母さんが一人暮らししていて、息子さんが遠方にいるという方がいます。
その方は、2011年からずっと見ています。認知症の程度で言うと、重度です。自分でできることはかなり限られてきているおばあちゃんですが、私のことはしっかり覚えているんですよ。まだ軽度の時期から、私がずっと見ているからでしょう。
 でも、そのおばあちゃんは、家で亡くなりたいと思っているわけでは決してないんです。いざとなったら病院でも施設でもいいとは思っているんですが、さしあたって当面は家がいいと言っています。でも周りは、家ではもう厳しいんじゃないかと思っているんでしょうけれどね。
 それでも家で過ごせているのは、まず息子さんが私を全面的に信頼してくれていて、盛岡にいる保護者的な役割として全面的に任せてくれているんです。
 息子さんが私たちに、いい意味で丸投げしてくれるような関係性を作ったということが、まず最大の勝因です。それにつきるでしょう。いくら本人が「家がいい」と言っても、家族が遠く離れていると、年老いた父母を家に一人で置いておくというのは耐えがたい不安ですから。

後閑:たしかに。不安ですね。

松嶋:本人が「家がいい」と言っていても、いくら親のためとはいえ、それを許容することはできない。それはやはり愛情が深いからです。
 そこを、「そうは言っても、お母さんの言う通りにしよう」までもっていく過程での息子さん娘さんの葛藤というのは、半端なことではないと思うんです。
 でも、そうもっていけるようにするためには、やはりここで安心して親を預けられるという、私たちとの関係性が最も大事です。これが大前提ですね。1つ目は信頼関係です。
 2つ目は、これは医者の強みだと思うんですが、今後どうなっていくかが読めるんですよ。
 おそらくあと1年くらいしたら、こうなって、こうなっていく、というのがわかるんです。長い目で見て、「最期は家で」と言っていたら、家で最期をすごせるように早い段階から準備をしているんです。
 たとえば、ゆくゆくはいろいろなことを忘れてしまう。でも、認知症の人でも、いい感情は忘れないものです。ですから、忘れてしまう前にサービスを入れておく。
 たとえば、そのおばあちゃんにはかなり早い段階から訪問看護を投入しました。もちろん、まだいらなかったんですよ、訪問診療だけで十分だったんです。けれど記憶力が落ちていったら、この人の性格からいうと、新規の人を受け入れられないだろうことが容易に想像できました。ですから早いうちから受け入れられるようにしておこうと思ったわけです。
 用心深い方だったので、最初は誰も家に入れませんでした。けれど、私のことだけは信頼してくれていたので、「松嶋先生から言われてきました」と言って、かなり頻繁に行くようにしてもらいました。そうすると、やっぱりそれなりに覚えてくれるんです。
 これをしてから、タイミングを逃さずに訪問介護を入れます。
 その人が落ちていくのを追いかけるのではなく、同じくらいのスピード、もしくはちょっと先回りしてサービスを入れていく。たぶんこれは、私の得意技です。
 ある程度、先手先手で入れたりしながら、あとはご家族といい関係性を作るために、何かあるごとに話をしていきます。「今後このようなことが起こるかもしれません」などと言いながら、起こりうる不安にそのつど対応していくんです。

後閑:先を見通せる医師の力は大きいですね。

松嶋:今日、こんなことがありました。