松嶋:施設に入っている方の息子さんが、今後認知症などが進んでいってしまっても、ここに住み続けられるものなのかと心配しているというんです。
 娘さんは私と4、5年関わってきていますから、「先生が大丈夫と言ってるから、大丈夫なんじゃない?」と言ってくれるのですが、息子さんは普段あまり私と接してないから、不安なんですよね。やっぱり男は多かれ少なかれマザコンですから。
 私はこういった不安を結構重要視しています。なぜなら、必ず最後、いよいよとなった時に混乱のあまり焦ってしまい、無理やりにでも病院に連れていこう、救急車を呼ぼう、という話になりがちですから。
「今のうちに何が心配かをよく話し合っておいたほうがいいですね。たとえば、このまま認知症が進んでいった時でも本当に施設にいて大丈夫なのか、ということです。最期まで施設に住み続けていて大丈夫なのですが、心配なことは何かということをちゃんと議論しておいたほうがいいですね」と伝えました。
 私が患者さんや家族に言っているのは、「いちいち聞いて」です。いちいち、です。
 認知症の人に限りませんが、家族もいちいち何かあるごとに聞いてほしいですし、僕らもいちいち答えて、その時にある不安をひとつずつ潰していきます。特に一人暮らしの人には必要です。

後閑:それは大事ですね。
 何を不安に思っているのか、ということを、そのつどいちいち明確にするんですね。

松嶋:そうです。患者さんはすごく不安なんです。
 でも、こんなことを言うとなんですが、不安に思っていることは、私たち医療者からすると本当にささいなことなんですよ。

後閑:だからこそ聞いてほしいですね。そうしたら不安は軽減して、最後まで穏やかに過ごせますね。
 認知症の親がいる娘さん息子さんが親にしてあげられることについて、何かアドバイスありますか。

松嶋:家族によく言うのは、「家族にしかできないことをやってあげて」です。
「家族でなくてもできることは丸投げしてください。たとえば、寝たきりの人なら、オムツを交換する、何か介助するとかいうことは我々が何でもやります。けれど、家族にしかできないことがあるでしょう?
 たとえば思い出話をする、ケンカをするとかです。食事も何を食べるかより、誰と食べるかのほうが大事だから、たまに1週間に1回でも、1ヵ月に1回でもいいから、外食してもいいじゃないですか。だから、「家族にしかできないことをやってあげて」と言いますね。

後閑:「ただそばにいる」というのも、家族にしかできないことですよね。
 家族がそばにいるというだけで落ち着きます。全然知らない人がずっとそばにいたら、緊張してしまって落ち着かないです。

松嶋:「何もしないということをやったよね」ということは、比較的声を大にして言うことはあります。
「最後に点滴をしないという決断は、きっとつらかったでしょう。
 でも、その難しい決断をしたおかげで、今日こうやって綺麗な顔で亡くなることができたんですよ、
だから僕は、あの決断は厳しかったとは思うけれども、その決断をしたご家族に心から敬意を表したいと思います。本当にお疲れ様でした」
 そう言うと、号泣されるご家族は多いです。その時にグリーフケアは完了です。
 すごく重い十字架を背負っていたんだと思うんです。気丈に振る舞って、「点滴はいらない」と言うけれど、本当は何もしないことに抵抗感や罪悪感があったり、すごく背負っていたんだろうなということはわかります。
「何もしてあげなかったという最高のことをしてあげたよね」というのは、最後に結構言ってあげたりしますね。

後閑:認知症の人に限りませんが、最後に「何もしてあげなかったという最高のことをしてあげた」という考え方をもっと広めたいです。最期まで穏やかに過ごせる人が増えることを願っています。

認知症の親を支える人に知っておいて欲しいこと
①医師と信頼関係を築く
②不安はそのつど聞いて、先を見通して先手を打つ
③家族にしかできないことをする