“負けない”スーパードライは数字公表
ナンバーワンの称号は手放さない
一方、アサヒにしてみれば、ビール類の販売数量の公表取りやめは、“逃げ得”の要素が複数ある。
「シェア争いは終焉を迎えるべき」(アサヒビール・塩沢賢一社長)と言うものの、ビール類でナンバーワンという称号を持ったまま、シェア争いからの脱出に成功できるからだ。
加えて、ビール類の販売数量の公表を取りやめる一方で、ビール「スーパードライ」、発泡酒「スタイルフリー」、新ジャンル「クリアアサヒ」の主力3ブランドについては、20年以降も販売数量の公表を続ける。中でも、スーパードライの販売数量公表継続はメリットが大きい。
19年の国内販売数量で、ビールで2番手につけるキリンの「一番搾り」が2910万ケースであるのに対し、スーパードライは8355万ケースとなっており、圧倒的な差だ。
アサヒグループホールディングスはグローバル化に注力し、海外事業だけで事業利益の40%超を稼ぎ出している。その世界戦略の中心に据えられているのが、他ならぬスーパードライだ。
2位に転落する恐れのないスーパードライの数量公表は続けることで、「日本で圧倒的な地位を築いたビール」として、世界に売り込むことが可能だ。
新ジャンルではキリンとサントリーの後塵を拝するアサヒにとって、スーパードライはまさに生命線で、そのブランド価値は死守できる。
今回の公表数字の変更について、アサヒ社内からは肯定の声があがる。
「これまで酒類業界は数量で見ていたこと自体が間違いだった。通常の企業は金額で見ている。金額ベースで考えるように変更を断行したのは賢い」(アサヒ本社社員)と経営陣の判断を評価する。
販売数量の公表取りやめで、集中砲火を浴びているアサヒ。業界を混乱に陥れ、長年のビール類の統計の歴史を終わらせた事実は間違いない。
ただ、酒類の国内市場は縮小を続け、量を追う時代は終わりを迎えた。単に数量を追うのではなく、売り上げや利益といった金額を重視するというアサヒの言い分はよくわかる。今後のアサヒは、利益率の上昇を始めとした数字の改善がより一層求められる。
それができなければ、今回の公表方法の変更はキリンとのシェア争いから逃げるための“言い訳”だったと語り継がれることになるだろう。