ライバルのキリンビール布施孝之社長も「マーケット全体のトレンドが見えにくくなる」と1月8日の事業方針説明会で苦言を呈した。
公表を取りやめる理由について、アサヒの担当者は、「経営指標を販売数量から、金額に切り替えるため」と説明する。しかし、同業他社からは、「非常に自分勝手な行動で呆れている」と不満が噴出していることに加え、熾烈なシェア争いから逃げ出したことも非難の対象だ。
大手4社の販売数量に基づいた19年のビール類のアサヒビールのシェアは36.9%で、2位のキリンのシェアは35.2%。その差は18年の3.1ポイントから1.7ポイントまで縮まり、肉薄した。
キリンが追い上げる背景には、新ジャンル「本麒麟」の大ヒットがある。20年にも猛追するキリンがアサヒを抜くとの予測もあり、「キリンに抜かれそうになったから、抜かれる前に公表をやめた」と指摘する声が業界では根強い。アサヒに追いつけ追い越せでやってきたキリンは、寸前で望みが絶たれた。
リーディングカンパニーによる単独行動は、業界の慣例となっていたシェア至上主義に終止符を打つこととなった。
ビール業界は、18年を最後に長年シェア算出の根拠となってきた課税出荷数量の公表をやめた。課税出荷数量とは、アサヒ、キリン、サントリー、サッポロ、オリオンの5社が加盟するビール酒造組合が92年から発表してきた統計だ。
だが、近年はクラフトビールを手掛ける小規模なビール会社の出現などにより、実態に見合わないとされ18年の発表分をもって幕を下ろした。19年以降は、各社が公表する販売数量に基づいて各社のシェアを算出していくはずだっただけに、アサヒへの不信感はぬぐえない。