講演の副題は「数学を通じた社会貢献」。東京大学大学院で整数論を修め、数学的思考をベースにデジタライゼーションの責任者を務める亀澤氏。独自のデジタル通貨であるMUFGコインや、ブロックチェーン技術を活用した決済インフラシステムの事業化を牽引してきた持ち味が発揮された内容だった。
大手銀行で初の理系出身トップというだけではない。今回の人事は、異例ずくめだ。三毛社長の在任期間はわずか1年。しかも年次も逆転し、持株会社社長となる亀澤氏は傘下銀行頭取を続投する三毛氏よりも7年下となる。
加えて、亀澤氏は市場や証券、海外などでキャリアを重ねており、銀行トップの登竜門である経営企画部は未経験だ。MUFGのあるグループ役員は「一昔前であれば、決してトップになる人材ではない」と指摘する。
交代会見で三毛社長は「銀行の従来のやり方が、将来も同じであり続けるとは限らない」と語り、亀澤氏の「金融を外から見る目」(三毛社長)への期待感を示した。
銀行界でも特に保守的と目されるMUFGでさえ、過去の踏襲ではもはや将来を切り拓けないほどの苦境に追い込まれていることを示す人事といえる。
確かにMUFGの収益は厳しい。グループの連結業務純益は2015年3月期の1兆6449億円から19年3月期は1兆785億円に減少。4年間で3分の1以上減った計算だ。