デジタル化も「地図」が大きなハードルに!
ちきりん 話は変わりますが、最近、よくいわれるデジタル版はどうなんですか?
石谷 若干はありますが、ほとんどないに等しい状況です。
ちきりん なぜですか?
石谷 デジタル化の話は、いろんなところから、もう10年以上も前からいただいているんですが、どうしても、地図がキモになる。日本人って海外で地図を買わないので、日本から地図を持って行く。それがデジタルになったときに、どう見ることができるかという問題があるんです。
ちきりん 具体的に言うと?
石谷 地図に使える情報をどれだけ載せられるか。しかも載せるだけではなくて、どう展開ができるかっていうことなんです。その部分で私たちが納得できる地図が、いまはまだない。
ちきりん でも、「地球の歩き方」に使われている地図だけでもいいし、海外旅行だったら、それほど広範囲な地図は必要ないんですよね? 都市部だけの地図でいい。それでもなかなかむずかしいんですか?
石谷 まず、「地球の歩き方」に載っている地図は、正確には緯度経度には対応していません。
ちきりん ああそうか。すると、これをそのままデジタル化しても、今いる場所が正確には表示できないんだ。
石谷 そうですね。実際に、緯度経度のきちんと入った海外の市街区分地図などを手に入れるのが、いかにむずかしいか。ハードルはけっこう高いんですよ。
ちきりん 日本では国土地理院がありますが……。
石谷 海外には、そういうところがあっても簡単には提供してくれません。
ちきりん 地図は軍事上の事情が大きなもありますし、使う側が思っているほど簡単ではないんですね。
石谷 ええ。地図は国外へ持ち出し禁止という国もけっこうありますね。日本がむしろ、地図を簡単に手に入れやすいという面では特殊でしょう。もちろん、地図の利用ではグーグルも考えました。でも、実際に頼むとすると、リンクさせて購入者に飛んでもらう場合も、そのシステムを利用する発行元の立場として、すごくお金がかかりそうです。
グ-グルマップの使用料が数千万円!?
ちきりん 詳細な地図情報って、もともと高いですよね。
石谷 そうですね。しくみとしては、地図をアプリに載せて、安全情報とかも組み込んで、「この時間帯はこの道路は危険」といった情報も流すことはできます。
ちきりん それって便利ですよね。でも、そこまでしようと思うとグーグルマップを使わざるを得ない。ちなみに、値段が高いっていくらくらいの話ですか?
石谷 おそらく数千万円のレベルにはなるでしょうね。
ちきりん すると、競合が先に出してこない限り、御社の立場としてはゆっくり検討ってことでいいのかもしれませんね。
石谷 まあ、デジタルの今後をにらみながら、ということにはなりそうです。
ちきりん ところで、去年の秋にイタリアに行ったときに、iPadを使って現地ガイドが美術館を案内していまして、とても便利そうでした。著作権の問題があると思うので、データは美術館からもらっていると思うんですけど、絵画とか彫像など美術館の所蔵品データが全部iPadに入っていて、それを見せながら説明しているんです。絵や彫刻の全体像を見せた後、細部の拡大も簡単にできます。今までだと、「あの右上の緑のところに天使が書いてありますよね」とか、絵を指さして説明していました。でもそれだと「えっ?どこ?」って感じになるんです。それが、iPadの画面で拡大しながら、「ここに天使が描かれているんですよ」と説明してもらえると、すぐにわかります。
別の画面では美術館のレイアウト画面を表示して、「はい、皆さんは、いまココにいますので、1時間自由にご覧になってください。お手洗いや売店はここです。私は1時間後に画面で言うとココの赤い点の場所でお待ちしていますから、必ず集まってください」って、指でレイアウト画面を示しながら説明しているんです。
石谷 それは便利ですね。海外の巨大な美術館・博物館になると、数日かけて見て回る人もいますから、普及すれば、圧倒的に便利になりそうな気がしますよね。iPadとかを2画面に分けて上は地図で下は情報とか。
ちきりん そういうものの『街編』ができたら理想ですよね。私、海外に行くたびに迷子になってるんで(笑)。あと、デジタル版では、情報のアップデートの問題も解決できますよね。使う側としては、アップデートまでの期間が短くなれば効果も大きい。ネット版で、1回買えば2年間は無償アップデートとかっていう契約だと、行くたびに新しい情報が入ってうれしいです。
石谷 たしかに1年に1回でもめまぐるしく変わる街はいっぱいありますね。香港とかシンガポールのお店とか。
ちきりん ソウルもしょっちゅう変わりますよね。半年ともたない。