理想は「地球の歩き方 デジタル図書館」
石谷 デジタル版とか考えたとき、本当に「地球の歩き方 デジタル図書館」とかにして、年間契約で「その図書館の中の本をいつでも見られます、そのなかの情報は常にアップデートされています」っていうやり方は考えたことはあるんです。
ちきりん それ、いいですね。でも、そのデジタル化での成功より、さきほどの「aruco」シリーズが本体シリーズのレベルになるほうが御社としては優先順位が先というか、大事ということですよね。
石谷 いま現在はそうです。もちろん新シリーズもデジタル化も両方進めてはいますが、各社さんともデジタル版で収益を上げることのむずかしさがわかってきた。そうなると、なかなかその部分だけに力を入れられないのが現実ですよね。
ちきりん それは、ガイドブックだけじゃなくて書籍全部に言えることですね。そもそも、本を出す会社が儲からないビジネスは始めようがないですから。でも、普通の本以上にガイドブックはデジタルの恩恵が消費者にあると思うんです。
石谷 ちゃんとつくればデジタルのほうが使いやすいとは思います。ただ、その使い勝手をよくするのに、ハードの部分も重要なんです。たとえば、利便性をいえば、GPS機能を載せたほうがいいでしょうが、重くなって開かないのでは意味がありません。将来的には未確定な面もあるのですが、現段階では、簡単に「GPSを載せましょう」という話にはならないんです。
ちきりん なるほど。テキストだけなら本をデジタル化するのは単純な話だけれど、地図をデジタル化してもちろんGPS対応させ、新たな機能を付加すると、実現するためのインフラとか本体のスペックとかが、まだ、整っている状況とは言いがたいってことですよね。
石谷 そうですね。それが大きいですね。
ちきりん 確かに端末のサイズ一つとっても微妙ですよね。iPhoneなどのスマートフォンのサイズでいいのかタブレットサイズにすべきか。タブレットを常に持ち歩くような旅行スタイルが浸透するのかどうかも大きいかもしれない。使う側としては、ガイドブック専門のタブレットがあってもいいし、ダイヤモンド・ビッグ社さんに開発してもらってもありがたいけれど、どれだけ普及するかは当然、大事な要素ですよね。
石谷 ふだんiPhoneなどのスマートフォンを使っているなら、旅行に行くときにも必ずスマートフォンを持っていくでしょうから、現地ではタブレットとの併用になりますよね。でも、それが浸透するかはまだ先の話です。
ちきりん 今、お話しを聞いて、相当先だなと思いました(笑)。いろいろ大変そう……。
石谷 そこを「地球の歩き方」として取り込んでやっていこうとすると……。
ちきりん 端末まで考えると一社じゃできないし、時間もかかるってことですよね。
石谷 ええ。一緒にやりましょうって言ってくれるところもあるんですけど。一緒にやりましょうってところは、「タブレットの開発費は半分もってね」という話にもなる(笑)。
「地球の歩き方・国内編」はあり得るの?
ちきりん もうひとつ大事なことをお聞きするのを忘れてました。国内旅行のガイドブックを「地球の歩き方」スタイルで作ってくださることはあり得ますか? あるとしたら、すごく応援しますけど(笑)。
いつも思うんですが、イタリアの田舎って世界中の人が知っているのに、日本の田舎って世界の人はぜんぜん知らないんです。まず、日本各地のシリーズを日本人のために日本語で作って、それが中国とか台湾とか韓国向けに翻訳されれば、日本の田舎にもイタリアの田舎みたいに海外から旅行者がくる。そういう感じになったらいいなあといつも思ってるんです。
石谷 じつは海外向けにはつくってあるんです。英語、中国語、韓国語などで。
ちきりん そうなんですか!? 北海道版とか四国版とか、地域版としてですか?
石谷 そうですね。ただ広告ベースでフリーペーパーとして配っているので、その意味では地域版で網羅しているスタイルとは違いますね。
ちきりん なるほど。最近はレストランでも思うんです。たとえば、東京でおいしいレストランでも、お客は日本人だけで、まったく外国人がいないお店がまだまだいっぱいあります。「すごいおいしいし、そんなに値段も高くないお店」でも、外国人にはぜんぜん知られていないお店が星の数ほどあるんですよ。
今、外国人が行くお店は、中国人ツアー客を受け入れてるような店か、そうとう個別に有名な店かに限られてしまう。そうじゃない「普通に美味しいお店」をまとめて「日本の歩き方」で紹介してもらえるといいなあと。
石谷 いろいろ考えられるでしょうが、国内ガイドの市場は、JTBさんの「るるぶ」の圧勝でしょうね。書店の棚の構成を見ても、そうです。そこに、参入することは普通に考えてもハードルが高い。でも、9月に新しいMOOKを出します。パワーチャージ系女子旅応援ガイドです。
ちきりん そうか。あと、海外からだと、やっぱりネット上の情報の方が圧倒的に使いやすいかもしれませんね。今回はガイドブックの将来を考えるうえでポイントになることをいろいろ教えていただきました。つくり手側としてお話ししづらいことも教えていただいたように思います。ありがとうございました。
では次は、「そのようなガイドブックづくりのなかで、どのような旅をみなさんにしていただきたいと考えているか」について、うかがいたいと思います。それにしても女性は行動力もあるし、旅で充電できるってすごいですね。
(続く)
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