「aruco」はすべて女性がつくる
ちきりん 女の子向けのモロッコとか、女の子向けバングラディシュとか、でき始めたら楽しいですね。
関西出身。バブル最盛期に証券会社で働く。その後、米国の大学院への留学を経て外資系企業に勤務。マネージャー職を務めたのちに早期リタイヤし、現在は「働かない生活」を謳歌中。崩壊前のソビエト連邦などを含め、これまでに約50ヵ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログ「Chikirinの日記」を開始。政治・経済からマネー・問題解決・世代論まで、幅広いテーマを独自の切り口で語り人気を博す。現在、月間150万以上のページビュー、日に2万以上のユニークユーザーを持つ、日本でもっとも多くの支持を得る個人ブロガーの1人。著書に『ゆるく考えよう』(イースト・プレス)、『自分のアタマで考えよう』(ダイヤモンド社)、『社会派ちきりんの世界を歩いて考えよう!』(大和書房)がある。
石谷 『モロッコ』もすでに出ていて、それから『ホーチミン』や『エジプト』なども出しています。
ちきりん ホーチミンの雑貨屋さんとか大人気ですもんね。ところで、「aruco」シリーズができたことで、本体シリーズの売上が落ちているわけではないんですよね。たとえば、『ソウル編』の売上に響いたり……。
石谷 その影響はないですね。ぜんぜん落ちていない。
ちきりん それは両方を買う人がいるってことですか?
石谷 たぶん違う人が買うんだと思います。この「aruco」シリーズが増えてシリーズとして成立するということは、ウチの全体での読者層が倍になっていく。
ちきりん 読者層が倍になるってことは、旅行者数も倍になるってことなんですか?
石谷 とは限らない。やはりアンチ「地球の歩き方」という人もいて、バックパッカーの本という当初のイメージを持ったままの人や、それが理由で最初から手に取らない人たちもいます。じつは以前、「地球の歩き方」についてのグループインタビューをしまして、年代別のファン派とアンチ派にも協力してもらいました。すると、「地球の歩き方」を買わない層の理由でいちばん多かったのは、「バックパッカーの本だから」という意見です。ずっと買わないままの人には、「え! あれ、カラーなんだ」という意見も多かったですね。
ちきりん 過去にそうした理由で「地球の歩き方」以外のガイドブックを買っていた人を取り込んでいくということですね。そうした調査結果が「aruco」シリーズを出そうと思われるきっかけになっていったと。
石谷 ええ。海外旅行がこれだけ国内旅行並みになってくると、好みがいろいろ出てきます。そこで、新しい好みに対して商品を打ち出してみたというわけです。そうしたら、けっこう売れた。
ちきりん 感覚的には、本体シリーズの売上・地位・ブランドとかいろいろな観点を含めて100とすると、「aruco」シリーズは、どのくらいまで育ってきたとお感じですか?
石谷 まだ10くらいですね。
ちきりん まだ本体シリーズが圧倒的ということなんですね。反対にいえば今後が楽しみですね。編集体制としては「地球の歩き方」と同じですか?
石谷 「aruco」については、プロデューサーからライターも基本的にすべて女性です。女性の好みといったことは、同性のほうが感覚としてわかるっていうことですね。じつは大きさ・厚さ的に、このくらいのサイズがいま、旅行ガイドでは激戦区なんですよ。
ちきりん そういわれてみると、最近、これに似たサイズのガイドブック、いっぱいありますよね。大きさとしても持ちやすいし、旅行鞄にも入れやすい。でも、文字、ちっちゃいですね(笑)。
石谷 ハハハ。ウチの前社長も、最初に出たときは「コレ、読めないよ」と(笑)。でも、「年配の男性に読んでもらおうとは思っていないので、社長は読めなくていいです」と(笑)。
ちきりん 20代〜30代の女性がターゲット。私たちはターゲットじゃない(笑)。おばちゃん用のもつくったら売れるんじゃないかな? とくに『ソウル編』とか(笑)。
石谷 いろいろと聞き取り調査などをすると、20代から60代以上も、女性の感覚はずっと変わらないみたいですね。「旅に関する発想」とか「カワイイって思うものとか」「買い物の傾向」とか……。そういうこともガイドブックの先々のことを考えていく際には重要になってきます。
ちきりん 女性は本当に雑貨が好きですよね。私の場合は、数年前に“断捨離”モードに入ってから、雑貨を見ると“将来の燃えるゴミ”に見えてしまって、最近は買わないですけど昔はよく買っていました(笑)。
なくなってしまった「男のふたり旅」
石谷 そうですか。一方、男は全然違うんです。年代によっても好みによっても指向が違うので、まとめにくい。
ちきりん たしかに女性は若い頃に美術館めぐりが好きだと年配になっても同じ趣味という人が多いようですが、男性の場合は若い頃はまったく興味のなかった美術品や焼き物などに年配になって急に熱中し、“わびさび”を追求する人もいますね。ところで女性の旅行者が増えると、女性の編集者も増えるかもしれませんね。
石谷 いままでウチは7割方が男性でしたが、「aruco」となると、もう男性にはつくれないと思います。見た瞬間に「カワイイ」って思えるものが何かがわからないと、つくれないですよね。われわれも、「こうしろ、ああしろ」とは口出しできない(笑)。
ちきりん このシリーズは「地球の歩き方」の会社が出しているってことを、あまりアピールしない方針なんですか? 表紙の隅っこにちょっとだけ載ってますけど……。
石谷 そうですね。「『地球の歩き方』のブランド名を載せない」という選択肢は編集側にはあったんですが、販売的というか書店さんへの対応としては「地球の歩き方」のシリーズということも大切だ、ということですね。
ちきりん 棚に一緒に「並べてもらおう!」っていう作戦ですね。ところで、なぜ、男性は海外旅行にいかなくなったんでしょうね。もう、海外旅行は全く特別なものではなくなって、国内旅行より安いくらいですよね。九州の人には、ソウルなんて渋谷へ行くより早くて安く行けるくらいです(笑)。
石谷 ある学者は、女性って他の民族にもお嫁に行くことが多いから、「異なる環境」に耐え得る資質が遺伝的にあるんじゃないかって言ってました。だからでしょうか、語学も女性のほうが得意な人、多いですよね。
ちきりん 女性は新しいところに行くのが苦じゃなくて、男性はだいたい民族の長とかずっとその場所にいて、とくに長男は動かない(笑)。言われてみれば、そうなのかも(笑)。
石谷 いまの若い人に、「男のふたり旅」っていうのはあり得ないそうですよ。もちろん、男だけの海外グループ旅行もまずない。
ちきりん そうですか? でも、女の子同士はあり得る。グルメだスピリチュアルだと女子旅も盛んです。男女の旅のスタイルを調べて集計したら、統計としてはものすごい差が出そうですね。その差を本づくりに活かすことも大切なのかもしれません。