大分で生まれ、小・中・高と地元の公立校、塾通いも海外留学経験もないまま、ハーバード大学に現役合格した『私がハーバードで学んだ世界最高の「考える力」』の著者・廣津留すみれさん。
ハーバードを首席で卒業後、幼い頃から続けているバイオリンを武器にニューヨークのジュリアード音楽院に進学、こちらも首席で卒業した。
現在はニューヨークを拠点に、バイオリニストとして活動しながら、起業家としても活躍している。
日本から突如、世界のトップ校に飛び込み、途方に暮れるような大量の難題を前に、どう考え、どう取り組み、どう解決していったのか?
著者が学び、実践してきたハーバード流の考える力について、自身の経験を下敷きに、どうすれば個人・組織が実践できるかを、事例やエピソードとともにわかりやすく紹介する。
締め切りと
よきライバルで
やる気と思考力を
高めよう
人間の脳は、よくAIと比べられますが、人間の脳とAIには大きく3つの違いがあると私は思います。
第1の違いは、「ゆらぎ」があるかないか。
同じ問いに対してAIは毎回同じような答えを出しますが、人間は時と場合によって導き出す答えが異なります。これが人間特有の「ゆらぎ」です。
若い女性にも老婆にも見える『妻と義母』という隠し絵があります。
この隠し絵は、ある瞬間は若い女性の横顔に見えるのに、別の瞬間には老婆の横顔に見えることがあります。脳にはAIにはない「ゆらぎ」があり、その都度、情報処理の結果が異なっているからです。
休憩や仮眠をとると新しいアイデアが思い浮かびやすいのも、脳に「ゆらぎ」がある証拠です。
その点、AIは一度再起動させたからといって、前と違う答えを出してくるわけではありません。
人間の脳とAIの第2の違いは、やる気がパフォーマンスに影響を与えるかどうかです。AIにはやる気というものはありませんが、人間の脳はやる気が低下すると処理スピードも低下します。考えようとしても集中力がなくなり、思考力が下がります。
人間がやる気の低下によって思考力を下げないため、できることが2つあります。
それは「締め切りの設定」と「尊敬できるライバルの存在」です。
何にでも締め切りを設定するのがハーバード・スタイルでもあります。
締め切りがあるとやる気になれるのは、誰しも実感することでしょう。
ハーバード時代は、やらなくてはいけないタスクが多すぎたので、それぞれの締め切り直前にやる気を高め、脳を2〜3倍の速度で回転させるイメージで、一気に処理するような日々が続いていました。
尊敬できるライバルの存在も大切です。
女子フィギュアスケートのキム・ヨナ選手が2010年のバンクーバー五輪で金メダルを獲れたのは、浅田真央選手というライバルの存在があったからだと言われます。
逆に浅田真央選手も、キム・ヨナ選手という最高のライバルの存在に刺激を受けたのは間違いありません。
スポーツの世界だけではなく、学業やビジネスの世界でも、「あの人に負けないように私も頑張ろう!」と思えたら、適度な緊張感でやる気も高まります。
ただし、ライバルへの敵意を感情的にむき出しにするようでは逆効果です。
ライバルとはつねに平常心で接し、好敵手としてお互いを高め合うことを意識します。
ここでフィギュアスケートを例に持ち出したのは、技術と芸術性の両立が求められる点で、音楽とよく似ているからです。音楽コンクールには技術点はなく、いわば演技点のみですが、フィギュアスケートの採点には両方あります。
演技点は、審判の主観や好みに左右される部分もあって不確実である一方、技術点は自分の技が成功しさえすれば確実に点数を稼げて、それが勝敗を左右します。
それだけに選手たちは、本番で緊張を強いられます。私はやる気を出したいときには、YouTubeでフィギュアスケートの試合を見ることが多くあります。
成功のためには、本番に向けて心身のコンディションをいかにピークに持っていくかがポイントです。
たとえば羽生結弦選手は、ドキュメンタリーや試合前の中継を観ても、本番前の集中力が半端ではありません。
その羽生選手が試合本番で難しいジャンプを決めるのを観たら、このように私も本番に頂点を持ってこれる努力をしよう、と勉強になります。
またフィギュアは練習でいくら綺麗に4回転ジャンプができても、本番で飛べなかったら点数はついてきません。音楽も、練習でいくら難しいフレーズが弾けていたとしても、本番でミスをしたら完璧とはいえません。
たとえ少しミスをしてもさっと頭を次に切り替えてミスを引きずらないようにするのが肝心なので、フィギュアで1度ジャンプに失敗した選手が次のジャンプで上手く復活する姿を見ると、「この人やるな」と感心します。
フィギュアスケートの選手たちは、活躍するジャンルは違っても、私のよきライバルなのです。
あなたにはよきライバルはいますか?