違和感に気づける人の「知覚」はどこが違うのか?

「えーっと、鼻筋が緑色。タイトルどおりだけど……」
「背景が3色。緑、ピンク、赤」
「背景の色の切り替わりが不自然」
「顔の左右で顔色が違う。右がピンクっぽくて、左は黄緑っぽい」
「塗り方も左右で違っていない? 右は雑に筆跡が残っていて、左はツルッとしている」
「右は肌荒れ、左は健康的」
「右は貧乏だったころ、左は裕福な現在」
「それか逆に、右は老けた現在、左は若かりしころとか」
「右はすっぴん、左はメイク後?」
「右は怒りの妻、左は穏やかなとき。左の口角がほんの少し上がっていて微笑んでいるように見えてくる」
「左右の顔のパーツが非対称」
「顔、首、身体の位置がなんだか不自然に感じる。姿勢がよすぎるからかなあ」
「塗り方が荒い。筆の跡がたくさん残っている」
「力強い絵だと思う。色も塗り方も」
「ところどころ、白い下地の色が見えている。塗り残しかな……?」
「額のあたりに筆跡が横に入っているから、シワみたいに見えない?」
「右の疲れ方がハンパない。目の隈が怖い……」
「目の上にも影があるから、彫りが深いだけかもよ」
「絵のモデルになっているのに、怒っているように見える」
「マティスはなぜ自分の奥さんをこんなふうに描いたのだろう」

「なんだか男みたい。髪の部分を手で隠していたらほぼ男に見える」
「髪型が昔のサムライにしか見えない」
「髪が1つの塊になっていて髪の毛が1本も描かれていない」
「生え際に赤いラインが入っているのが妙に気になる……」
「髪が青い。黒ではなくて」
「眉毛が青と緑だ」
「よく見ると輪郭線も青いね」
「ところどころ、輪郭線がある部分とない部分とがある」
「輪郭が直線的だから強そうに見えるのかなあ」
「背景の左右の色と、顔の左右の色が真逆になっている。ほら、背景は左が赤系だけれど、顔は右が赤系というように」
「黒目や服の模様の色も、背景の色と対照になっている」
「この絵って、大きく分けると3色しか使われていない……! 赤、緑、青」
「ほんとうだ。はじめはすごくたくさんの色が使われていると思ってたけど」

「アウトプット鑑賞」はどうでしたか?
少なくともこの絵を初めて見たときに比べれば、じっくりと自分の目で鑑賞できたのではないでしょうか。

しかし……見れば見るほど、果たしてこれが「20世紀のアートを切り開いたアーティスト」の、それも「代表作」といえるのだろうかと、疑わしく思えてきませんか?
正直、「色」「形」「塗り方」のどこをとっても、そこまで褒められるものではありません。とくに、色使いはめちゃくちゃです。
「この程度なら、もっとうまく描ける人はいくらでもいるよ」とも思えてきます。
当時の評論家は、マティス夫人のひどい側面をアピールしたようなこの肖像画を見て、これはまるで夫人への「公開処刑」だとまでいって皮肉りました。