ブレイディみかこ×関美和「もう、絶賛って言葉の上に何かある?」ブレイディみかこ氏(右)と関美和氏 Photo:平野光良(新潮社写真部)

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ著、新潮社)が、日本テレビ系「世界一受けたい授業」(3月7日放送)で紹介、Yahoo!ニュースと本屋大賞が選ぶ「ノンフィクション本大賞2019」、第73回毎日出版文化賞特別賞、「キノベス!2020」1位など数々の賞を受賞するなど、大きな話題となっている。著者の中学生の息子の日常を通して、人種差別や格差問題など分断の進むイギリス社会のいまを読み解いた意欲作だが、こうしたテーマとしては異例の31万部のベストセラーとなっている。
また、そのブレイディ氏が、日本で発売前から大きく注目していた1冊もまた、翻訳版が刊行されるや、16万部のベストセラーとなった。『父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』(ヤニス・バルファキス著、関美和訳、ダイヤモンド社)だ。ギリシャの元財務大臣が、娘に語りかけるように経済の本質を説いた同書について、ブレイディ氏は「近年、最も圧倒された本」と大絶賛する。
今回、ブレイディ氏と、『父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』訳者の関美和氏が、両書について語り合う夢の対談が実現! 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』について語った前編につづき、後編は『父が娘に語る~』についてのトークをお届けする。(構成:加藤紀子/写真:平野光良〈新潮社写真部〉)

ヤニス・バルファキスとは何者か?

―――『父が娘に語る~』については、以前、ブレイディさんに寄稿いただいた文章の中で、「あのバルファキス」がなんでこんなにかわいい本を書いたのか、というような表現がありました(「ブレイディみかこ『父が娘に語る経済』に圧倒された理由」)。バルファキスはイギリスでは、どんなふうに見られているのでしょう?

ブレイディ バルファキスが最も有名になったのは、2015年、ギリシャの経済危機の際、彼がギリシャの財務大臣としてEUと戦ったときです。EUから財政緊縮策を迫られるなか、大幅な債務帳消しを主張して話題になりましたが、イギリスに来たときも革ジャンを着てスキンヘッドで首相官邸に入っていく姿はなかなか強烈で、ニュースでもよく見ました。

ブレイディみかこ×関美和「もう、絶賛って言葉の上に何かある?」ブレイディみかこ
保育士・ライター・コラムニスト
1965年福岡市生まれ。県立修猷館高校卒。音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、1966年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち英国で保育士資格を取得、「最底辺託児所」で働きながらライター活動を開始。2017年に新潮ドキュメント賞を受賞し、大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞となった『子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)をはじめ、著書多数。新刊『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)は、Yahoo!ニュース×本屋大賞2019「ノンフィクション本大賞」、第73回毎日出版文化賞特別賞、第2回八重洲本大賞受賞、第7回ブクログ大賞(エッセイ・ノンフィクション部門)、紀伊國屋書店「キノベス!2020」第1位など、数々の賞を受賞、31万部を超えるベストセラーとなっている。

 その後は、イギリスのテレビでもコメンテーターとして出たり、講演をしたり、メディアへの寄稿も多く読まれているので、イギリスではよく知られた人です。

 彼はEUの緊縮財政をボロクソに言うんですけど、じつはEU離脱については、残留派を支持していたんです。みんながEUから離脱してバラバラになってしまったら、極右勢力が勢いを増し、右派ポピュリズムが伸びて第二次世界大戦前みたいなことになるぞ、ってことを何年も前から言っていて。だからこそ左派が「反緊縮」で変えていくべきだという主張なので、そういうところが他の残留派とは随分違うんですね。「内向き」「外向き」という理念のことだけじゃなくて、経済の軸が入っていた。

 英語が母国語じゃないせいもあるかもしれませんが、結構ストレートな表現でズバズバ言うので言葉にパンチがあって、彼のことを好きな人は結構多いです。とくに総選挙前になると、この人の意見には注目が集まります。

日本とは全然論調が違った

 日本では、ギリシャに対して「借金はちゃんと返さないと」というスタンスで、ギリシャに批判的な論調が多かったですが、イギリスではどうでしたか。

ブレイディ そのころ、ツイッターとかを見ていると、日本では「ギリシャ人はもっと働け」とか「借金を返せないなら、国が滅びるのは当然」といった、ギリシャの自業自得という論調が多い印象でした。

 一方で、じつはイギリスでは日本のような論調は少数派で、「ギリシャはEUの緊縮財政政策の犠牲者だ」「EUのやり方がおかしいのではないか」といった見方のほうが多かったんです。いま振り返ると、あれがいまのブレグジットにもつながっているのは間違いないと思います。

 バルファキスは最後までEUと戦いましたよね。彼はその経緯について『黒い匣』(明石書店)という本も書いています。

ブレイディ それはイギリスではものすごいベストセラーになりました。『黒い匣』が夏に出た後、同じ年のクリスマス前にこの『父が娘に語る〜』が出版され、こちらもベストセラーになりました。発売前から話題になっていましたが、この原書は表紙がとってもかわいくて、「あの強面の経済学者がなんでこんなステキな本を出しちゃったの⁉」って思ったわけです(笑)。

 だからなのか、若い子が結構買っていました。クリスマス前に3冊くらいまとめて買ってる大学生の女の子を見かけたことがあって、「こんな素敵な表紙の本をプレゼントに贈られたら、そりゃ読んじゃうよね」って。