格差社会を解決する「ビジョン」

 先ほどブレイディさんがおっしゃったことに関して、大きな政府か小さな政府かっていう長年の命題があるわけですけど、私が何年か住んでいたアメリカは、国民の多くが政府介入を「害悪」と考える、世界の中でも特異な国です。

 たとえば、先進国では本当に珍しく、国民健康保険制度がなく、人々の健康、生死さえ市場にまかされている。

ブレイディみかこ×関美和「もう、絶賛って言葉の上に何かある?」

 一方北欧のように、中央に人がいて、その人たちがみんなの幸せを考えて分配したほうがいいという、大きな政府をありがたがる国民もいます。

 世界中で、大きな政府か小さな政府かというイデオロギーの綱引きがあるわけですが、バルファキスは、その綱引きのもっと先に、直接的に富をつくりだす何かを共有する仕組みっていうのができたらいいねと。そんなまったく新しい未来を見せてくれているんだと思うんです。

 その「何か」は何かわからないけれど、たとえばいまで言うと、世界のわずか9人のお金持ちが世界の富の6割くらいを持っているんですね。そのうちの半分はテクノロジーの資本家なわけです。

 なので、テクノロジーを全員で、なんらかの仕組みで共有することができれば、貧富の格差がいまほどは開かなくなるのではないかと。そういうメッセージをバルファキスはこの本で伝えているのではないかと思います。

ブレイディ バルファキスは、この先いつまでも、大きな政府か小さな政府かっていう政治と資本の綱引きで終わるんじゃなくて、何か違う可能性もあることを示そうとしている。経済学者として自分の娘に「君たちに託す未来には、これまでとは違う世界があるかもしれないよ」という希望を持たせて締めくくっている。そこがこの本の美しさですよね。