経済知識がないと意見に説得力が出ない
ブレイディ イギリスだけでなく、ヨーロッパを見ていて日本と大きく違うなと思うのは、文化人がみんな経済の話に詳しいし、経済の知識がアップデートされているというところです。日本の知識人は、ともすれば経済の話はお金の話だから高尚ではないと思われるのか、イデオロギーの話になりがちで、あまり話さないんですよね。でも、経済のバックボーンがないと、政治に対して発言してもリアリティがない。
だから私や松尾匡さん、北田暁大さんは一緒に『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう――レフト3.0の政治経済学』(亜紀書房)という鼎談本を2018年に出したんですけど、『父が娘に語る~』を読んで、「あぁ、参った。こういう書き方があったか!」と(笑)。バルファキスは9日間で一気に書き上げたそうですが、経済に関心のない人でも楽しく読める文化や歴史の話をふんだんに盛り込んで、お金の話は地に足がついてリアルでありつつ、夢を追う詩的な部分もあり、面白く経済を語っている。もう、絶賛って言葉の上に何かある?って感じです(笑)。
「精神の自由」の源泉となる知識
―――バルファキスは本書で、「経済の仕組みを知ること」と「『自分の身の回りで、そしてはるか遠い世界で、誰が誰に何をしているのか?』について答える能力」が、精神の自由の源泉になると語っています。改めてここを読むと、「地べた」の現実を軸に社会を語るブレイディさんを彷彿とします。
ブレイディ ミクロとマクロの両方を見なさいってことですよね。それは大事だと思うんです。経済の問題に限ったことではなく、物理的な距離のことだけでもなく、歴史に学びつつも、はるか遠い未来まで見据えようってことでもあると思います。この本の読者は日本ではビジネスパーソンが多いそうですが、こうしたメッセージはぜひ若い人たちに伝えたいですね。
関 私はたまたま、この本の原書が出てすぐくらいのころにオックスフォードに2週間いたんですが、書店を見ていて、イギリスでは若い人にすごく読まれているんだなと感じました。
この本は、わかりやすいエピソードやエンタテインメント作品を通して経済のことが読めるというところが魅力で、日本でも広く読まれていると思います。重厚な経済の本とも違って読みやすく全体像がわかるので、もっと若い人に広がってほしいなと思います。
ブレイディ いま中高生が『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』をよく読んでくれているそうなんですけど、大学生になったら、今度はこっちを読んでほしいですね。
こういう本を読んで若い人が経済に目覚めて、自分たちの新しい未来のための社会運動でも起こしてくれたら、ガンガン応援したいです。