「私、もう一生、シャワーを浴びられないのかしら。こんなへんな病気ってあるのかな」

 悲しそうに話す菜奈さんに仁史さんが提案した。

「頭痛の専門外来に行ってみたらどうかな。シャワーが引き金になる頭痛っていくつかあるらしいよ。命にかかわらないからって、放置しておいていいはずがない。死にそうになるくらいの痛みがあるんだからさ」

新しい概念の病気
「可逆性脳血管攣縮症候群」

 菜奈さんはさっそく、頭痛の専門外来を受診した。

 問診の後、MRI検査、髄液検査、MRA、CTAなどの血管造影検査などを行った後、医師は言った。

「可逆性脳血管攣縮(かぎゃくせいのうけっかんれんしゅく)症候群ですね。RCVSとも呼ばれます。攣縮(れんしゅく)とは血管が縮むことです。病気自体は昔からありましたが、概念が明確にされたのはつい最近のことなので、まだまだ見逃されていることもありますが、ある程度経験を積んだ頭痛専門医なら、まず見逃しません。

 症状としては、あなたのように雷鳴頭痛と呼ばれる激しい突発性の頭痛が起きること。雷鳴頭痛とは、1分以内にピークがやってくる重度の痛みです。片頭痛も重度になりますが、自覚して1分以内でピークにはならないので、判別可能です。雷鳴頭痛を呈する患者の多くで、部分的な脳血管攣縮が認められることがわかっていますが、詳しいことは未解明です。くも膜下出血や脳静脈洞血栓症、脳動脈解離、高血圧緊急症など、鑑別しなければならない、さまざまな“命にかかわる病気”があります。

 中高年女性に多い病気で、シャワーやトイレ、入浴、運動、精神的な興奮、薬物、いきみ動作、性行為などでスイッチが入る雷鳴頭痛を繰り返します」

「それで、治せるんですか。前みたいにシャワーを浴びられるようにはなるんでしょうか。シャワー以外にトイレや運動でもスイッチが入るということは、今後私も、そうした動作をするだけで頭痛がするようになる可能性があるということでしょうか」

 矢継ぎ早に質問する菜奈さん。