「うーん、可逆性脳血管攣縮症候群については、まだ原因や標準的な治療法が明らかにされていないんですよ。ちなみに救急病院で奥様が処方された片頭痛の治療薬であるトリプタン製剤は効かないことはわかっています。シャワー以外の動作でも、頭痛が起きるようになることはあり得ます。

 ただ、ほとんどの患者さんは経過観察のみでも症状は落ち着いていくようです。

 治療で一番重要なのは、病気をきちんと診断して、シャワー、労作、薬物など、生活の中のスイッチになる動作を除去すること。うちの外来ではさらに、薬物治療を行います。今のつらい痛みを取ってあげること、できるだけ早く元の状態に戻すこと、完治するまで経過観察を慎重に行うことを重視しています。

 治療薬としては、RCVSへの効果が認められている鎮痛薬、血管拡張薬、交感神経遮断薬、抗てんかん薬などを、症状に応じて使い分けていきます。いずれの薬にも副作用はありますが、そのあたりも、効果とのバランスを見極めながら調整します。

 シャワーや入浴も、きっとできるようになりますよ、頑張って治しましょう」

 丁寧な説明を聞いて、菜奈さんはだいぶ安心した。

 これまで当たり前にできていたことができないのはつらいが、発作時のあの痛みを思えば、仮に一生シャワーが浴びられなくなったとしても、やっていけるような気はする。頭痛スイッチを入れないような体の洗い方は既に会得した。

「それにしても、世の中には、変わった病気があるものね」

 診断がついたことでホッとした夫婦に、元通りではないが、穏やかな日常生活が戻ってきた。

※本稿は実際の事例・症例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため患者や家族などの個人名は伏せており、人物像や状況の変更などを施しています。