「寄り」→表情のアップ
「引き」→街の情景
たとえば、駅で男性が誰かを待っているとする。
まずは「寄り」。
改札の前。両手をポケットに突っ込んだ男性はどこか緊張した表情をしている。スマホを取り出し、指を動かす。ぱっと表情が明るくなる。少し慌てた様子で、ミンティアのケースを振り、手のひらに載せて、勢いよく口に放り込んだ。
そして「引き」。
土曜日の夜。恵比寿駅の西口は忙せわしなく人が往来していた。改札前には、待ち合わせだろうか、誰かを待つ男女で一杯だった。山手線が到着したのだろう。ホームから降りてきた人たちがどっと改札に流れ込んでくる。その中に、駆け足の女性がいた。
最後に「寄り」。
「ほんとにごめん!」女性は言った。
「ぜんぜん、俺もさっき着いたところ」男性は笑顔で返した。
あなたはカメラマンであり監督だ。
カメラでどこを写し出すのか選ぶように、寄りと引きの目線を織り交ぜる。
これを意識するだけで、文章にリズムとメリハリが出てくる。
そこに狙いがあればいいのだが、一定の目線からずっと書いていると単調になる。
寄りで男性の表情を中心に語り続けても、何が起こったのかつかみきれない。
引きで街の様子を語り続けても、そこにいる人の気持ちが見えてこない。
「寄り」の目線なら、「なぜ?」「どうして?」という問いを持って、その奥にある心情や理由に突っ込んでいこう。
「引き」の目線なら、「過去・現在・未来」の視点で語ってみたり、「人間・世界・宇宙」の視点で語ってみたりすることで、文章に立体感が出てくる。
Googleマップで自分の住んでいる場所から、どんどん引いていき地球全体まで見たことはないだろうか?あの感覚は書く時も使える。寄りと引きを駆使しながら自分の写したいところを書くんだという気持ちで書いていこう。