アトピー性皮膚炎の治療法は、ステロイド外用剤が基本だ。しかし、ステロイド外用剤の正しい使用法や副作用には誤解も多く、とくに「ステロイドを塗りすぎて依存症になるのがこわい」という理由から、使用をためらう患者さんもいる。

新刊『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』の著者であり、京都大学医学部特定准教授・皮膚科専門医の大塚篤司氏が、自身が抱える「ある病気」を引き合いに、「ステロイド依存症」の正しい知識をお伝えする。(構成:編集部/今野良介)

「依存症」を誤解しないで

ネットでみかける噂の1つに「ステロイドを塗りすぎるとステロイド中毒になる」というものがあります。実際に、ぼくの臨床経験でも、「ステロイド依存になるのではないか」と心配する患者さんが多いのです。

この点に関しては、「皮膚科医の反論」と「アトピー患者さんの不安」が噛み合っていないために誤解が生まれやすいので、少し詳しく説明します。

皮膚科医は「ステロイド中毒やステロイド依存はない」と反論します。この根拠は、依存症の医学的定義が「ある特定の物質の使用をほどほどに抑えられない状態に陥ること」であるため、ステロイドはこれに当てはまらないからです。

つまり、皮膚科医は「医学的な定義」を根拠に「ステロイド依存はない」と言う。

それに対して「ステロイド依存がある」と訴えるアトピー患者さんは「長期間の外出でステロイドを忘れた場合や、ステロイドが切れて次の病院に行くまでの期間にアトピーが悪化してしまう不安な状態」を指して、ステロイド依存やステロイド中毒という言葉を使っていることが多いと思います。

医学的には「ステロイド精神病」というものが存在します。これは、ステロイドの「飲み薬」を比較的大量に治療で使った場合(プレドニゾロン換算で1日40mg)に起きる副作用で、うつっぽくなったり、妙にテンションが上がったりと、躁鬱状態になります。

しかし、ステロイド外用剤で使用量を守っている場合に、ステロイド精神病がおきることはないと思ってもらって問題ありません。つまり、ステロイド外用剤で、精神的もしくは脳に影響を与えることはないと考えてよいです。

「わたしってステロイド依存症…?」と心配するアトピー患者に読んでほしい、地獄のような「群発性頭痛」の話。「ステロイド外用剤の正しい用法・用量」は本書で詳述している。 Photo: Adobe Stock

「もう二度とあの苦しみを味わいたくない」

少し、アトピーと別の話をします。

ぼくは「群発性頭痛」という病気を高校生のときに発症して、40歳を過ぎた今も苦しめられています。群発性頭痛は「殺人頭痛」とも呼ばれ、この頭痛だけで自殺してしまう人がいるほどの激しい痛みに襲われます。「群発地震」という言葉もあるくらいで、一定期間に、集中的に、頭痛が起きます。

目の奥をドライバーでえぐり取られるような痛みが、数時間持続します。この痛みは、じっとおとなしく耐えられる程度のものではなく、寝ているときに群発性頭痛の発作が起きればベッドの上で数時間のたうち回ることになる。痛みのあるほうの目を取り出して、激痛を押さえつけたい衝動に駆られます。

痛み止めはいっさい効きません。ロキソニンやボルタレンの坐薬も試してみたものの、まったく効果がありません。これが、1年の数か月間、1日に1、2回、毎日必ず起きます。1回の発作が過ぎても、また明日発作が起きるのを知っているから、日々恐怖です。

それが4年ほど前、群発性頭痛の専門医に診てもらってから、状況が一変しました。注射の特効薬があったのです。発作が起きたらすぐに注射を打てば、痛みはゼロに消える。ぼくにとってはもう魔法のような薬です。ぼくの生活は、この注射のおかげで劇的に改善しました。

しかし、言い方を変えれば、もう注射のない生活に戻ることはできないということであり、国際学会の出張では必ず注射を持参しています。一度、注射を忘れてしまったときは、かなり焦って、それ以来「注射を忘れてしまうのではないか」という恐怖が常にある。

お伝えしたいのは、医学的に、ぼくのこの状態は「依存」ではないということです。注射のおかげで普通の生活が送れるようになって、注射がなければ病気で苦しむ状態に戻る。あの苦しみはもう二度と味わいたくないから、注射を切らさないように注意している。それは「依存」ではない。

アトピーの患者さんが「もう湿疹がひどい状態には戻りたくない」という気持ちからステロイド治療を実践しているとしたら、それは依存ではありません。むしろ、病気で苦しんでいたときより、今のほうがずっと過ごしやすくなった証拠なのです。