「すぐれたコーチ」になるには?
――林さんにとって、ビル・キャンベルのような存在はいますか。
林 いないですが、いるといいですよね。不安なときに寄りかかれる相手というよりも、自分の価値観を揺さぶってくれるような相談相手がいると、すごく人生が豊かになる気がします。
仕事やビジネスの成功のためというよりも、自分の人生をよりよく生きるための、人生のメンターのような存在。何か自分が立ち止まって考えるとき、「あの人ならどう考えるだろう」と思い起こすような存在がいることは財産になると思います。
―――すぐれたコーチになるためには、どんなことが必要だと思いますか?
林 たとえば、個人の技能を伸ばすとか、本音を引き出すといった目的であれば、コーチングの技法やフレームワークを学ぶことによって、カバーできる部分は多いでしょう。でもビルのように、個人だけにとどまらず、集団に影響を与えてエンパワーして、重要な業績指標を成し遂げるところまでコミットするのが有能なコーチなのだとしたら、技法やフレームワークだけでは足りないように感じます。
集団の成果を出すには、多様な人間を理解して、個々の力を引き出す必要があります。ビルにとって、そのベースは「愛」でした。
「愛」とは互いに関心を持つことであり、それはコーチングの受け手にとっては、挑戦を可能にしてくれることだと思うんです。相手を信じること、見ること、関心を持つことというのは、すごく力になると思います。
また、「励ます側が信頼できるとみなされていることが、効果的な励ましとやみくもな勇気づけとを分ける重要な点」だという、インディアナ大学のY・ジョエル・ウォン氏の言葉が本の中に引用されていました。
これには、過去に蓄積してきた意思決定の量が重要になると思います。多様な人材を率いて、どんな経緯をたどり、どういう意思決定をしてきたのか。その蓄積があれば、いま、目の前でコーチングを受けている人がどういう意思決定をしたいのか、何を大事にしているかが想像しやすくなるし、「ここが重要だぞ」とか「そこは気をつけろよ」とかって言えると思うんです。
実際、ビル自身、経営者として失敗も成功も経験してきたわけですが、こうした実績と人間性があってこそ初めて、相手の心に触れることができたはずです。ビルは最初からこういうコーチになろうと思ってなったわけではなく、あらゆる経験を積み重ねてきた結果として、このような偉大なコーチになったんでしょうね。