『利己的な遺伝子』のリチャード・ドーキンス、
『時間は存在しない』のカルロ・ロヴェッリ、
『ワープする宇宙』のリサ・ランドール、
『EQ』のダニエル・ゴールマン、
『<インターネット>の次に来るもの』のケヴィン・ケリー、
『ブロックチェーン・レボリューション』のドン・タプスコット、
ノーベル経済学賞受賞のダニエル・カーネマン、リチャード・セイラー……。

そんな錚々たる研究者・思想家が、読むだけで頭がよくなるような本を書いてくれたら、どんなにいいか。

新刊『天才科学者はこう考える 読むだけで頭がよくなる151の視点』は、まさにそんな夢のような本だ。本書は、一流の研究者・思想家しか入会が許されないオンラインサロン「エッジ」の会員151人が「認知能力が上がる科学的概念」というテーマで執筆したエッセイを一冊にまとめたもの。進化論、素粒子物理学、情報科学、心理学、行動経済学といったあらゆる分野の英知がつまった最高の知的興奮の書に仕上がっている。本書の刊行を記念して、一部を特別に無料で公開する。

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著者 マーザリン・R・バナージ
ハーバード大学心理学部リチャード・クラーク・カボット社会倫理学教授

優秀な法律家でさえ
スピリチュアルに傾倒する可能性がある

 人は自分の感覚を通じて世界を知覚する。そうやって脳を仲介して受け取る情報が、世界に対する理解の土台となるのだ。

 この土台があるおかげで、注意を向ける、知覚する、記憶する、感じる、論理的に考えるといった、ごく普通の精神活動や特殊な精神活動が可能になる。こうした精神の動きを介して、私たちは物質と人があふれる世界を理解し、その世界で行動するのだ。

 私は今、南インドにあるポンディシェリという都市でこれを書いているが、この文章を評価する人は、この都市にはあまり多くない。私と親しい人も含めて、ここにいるのは五感を凌ぐ超感覚的なものの存在を信じる人々で、彼らは皆、科学的に検証されていない「天然食品」や情報を取得する手段のほうが、科学的に立証されているものより優れていると思っている。

 たとえば、私は今回の滞在中に、人はカロリーを摂取せずに何ヵ月も生きていられる(体重は減るが、それは科学的な観察がなされるときに限られている)と彼らが信じていることを知った。

 ポンディシェリはインドの連邦直轄領のひとつである。300年にわたってフランスに支配され(窓の外を見ると、英国軍の侵略を何度も食い止めた痕跡がある)、インドが独立したあともその支配は10年近く続いた。多数の魅力を備えた都市だが、とりわけスピリチュアルな体験を求める人々が集まるようになった。多くのインド人や白人が世俗的な生活を捨ててやってきては、精神の向上に努めて肉体の治療を行い、そのコミュニティを代表して善行に投資する。

 昨日は優秀な若者と知り合った。法律家として8年間働いていたが、今はアシュラム(精神的な修行をする共同体)に住み込んで書籍販売を担当しているという。「法律の仕事に就いていた人間がスピリチュアルに傾倒するものか」と反論したくなるかもしれないが、アシュラムにいるのは、ここでの生活を求めて財産やさまざまな職を捨ててきた人たちだ。

 この話のポイントは、教養がありそうな人までもが、非合理的な思考の形を望んでいるように思えるというところにある。

 特定の都市をどうこう論じるつもりはなく、この一風変わった都市についてももちろん例外ではない。ポンディシェリは芸術と文化に力を注いで社会の向上を進めていて、その努力は賞賛に値する。

標準医療よりハーブを信じる人は
世界中どこにでもいる

 しかし、それと同時に、ヨーロッパ、アメリカ、インドから特定のタイプの人々を引き寄せる都市でもある。

 そのタイプとは、がんを治癒するのはハーブだと信じて(化学療法が必要にならない限り)標準医療を避ける人、新しいことを始めるのに火曜日は不吉だと言う人、足の親指にある特定のつぼが消化器系を支配すると信じている人たちだ。

 自分が生まれた時間の星の位置の関係で、高位の存在から説明のできない何かが送られてきた体験や、「マザー」の思想にふれたことから、ポンディシェリへ導かれたと主張する人たちもいる。「マザー」とは、アシュラムがある一帯を統治するフランス人女性のことだ。もう亡くなっているが、死してなお、任期中に辣腕をふるう多くの政治家よりも彼女の影響力は大きい。

 今あげたようなことは極端に思えるかもしれないが、世界のどこを見ても、現実に極端だとみなされているケースはほとんどない内容を変えれば、誤った姿勢が内在する思考はどこでも簡単に見つかる

 アメリカの私が暮らす地域で雪が56センチ積もったが、この積雪は間違いなく、しつこく地球温暖化を訴えるイカれた科学者たちに対して神が怒っているという信仰を生み出すに違いない。