大量の情報の中から「ノイズ」を
取り出してくれる科学理論

 私たちの認知機能に備えられるいちばん強力な武器は何かと考えたところ、「信号検出理論」が思い浮かんだ。これはシンプルでとても役に立つ概念だ。

 信号検出理論を踏まえた思考法はシンプルで、世のなかに純粋な情報はなく、常にノイズが混じっているというものである。たとえば耳に入る情報は、音の伝達に付随する物理的な特性の関係から、音質が低下する。

 また、情報を観察している生命体が持つ特性によって、音情報の伝わり方や解釈の仕方にさらなる影響が及ぶ。たとえば、聴覚の鋭さ、情報が処理されるときの状況(例:雷雨のなか)、モチベーション(例:耳に入ってくる情報に関心がない)などだ。

 このように、情報が物理的かつ心理的に伝わる条件ははっきりしないが、信号検出理論を活用すると、刺激と反応の両側面から決断の質を理解できる

 信号検出理論の最も重要な点は、受け取り手(人間以外の生物も含む)が手にするどんな情報も、必ず判断を言葉で説明した4項目のどれかに落とし込めるという点だ。

 何かが起きたのか、それとも起きなかったのか(例:電気は光ったのか、光らなかったのか)。それから、受け取り手が情報を検出したのか、しなかったのか(例:光は見えたのか、見えなかったのか)だ。

 これを表にしたのが図表1で、さまざまなタイプの判断を下すときに活用できる。たとえば、「ホメオパシーの薬を飲んだのか、飲まなかったのか」と「病気は治ったのか、治っていないのか」を図表に当てはめるという具合だ。

大量の情報の中から「ノイズ」を排除する方法図表1 2つの質問を使って「ノイズ」を排出する

・ヒット:信号は存在し、検出されている(正しい反応)
・誤認:信号が存在しないにもかかわらず検出されている(誤った反応)
・失敗:信号は存在するが検出されていない(誤った反応)
・正しい棄却:信号は存在せず、検出もされていない(正しい反応)

 信号が、暗い背景に対する明るい光のようにわかりやすいもので、判断を下す人の視力がよくて信号をとらえるモチベーションが高ければ、ヒットと正しい棄却は大量に生まれ、誤認と失敗の数はごくわずかとなるはずだ。

信号検出理論は
条件がはっきりしないときほど効果的

 判断を下す人の特性が変われば、判断の質も変わる。信号検出理論は、条件がはっきりしないという一般的な条件下での刺激と反応の質を評価するときにとりわけ効果的だ。その条件には、受け取り手が特異な基準(最低限点数)を設けている場合も含まれる。

 信号検出理論が適用されている分野は、ソナーによる物体の探知、記憶の質、言語の総合理解、視覚による認識、消費者マーケティング、陪審決議、金融商品の価格予測、医療診断と多岐にわたる

 この理論では、判断する過程の本質を理解するうえで、数学的に厳格なフレームワークを使うことになる。だから、科学者はひとり残らずこの理論を頭に入れておかないといけない。この理論が頭に入っていれば、「今週昇進するのは射手座の人である」といった意見の質を分析するときに、4項目について考えざるを得なくなる。

 よって、物事の道理をわきまえたいという人は、信号検出理論を認知の武器として備えておいたほうがいい。