先行者がいる市場で“広がるモノを作る”

 だからぼくは、三井不動産にこう提案した。
「日本の働き手の7割を占める、普通のサラリーマンが普通に使えるシェアオフィスを作る、というのをテーマにしましょう」

 このシェアオフィスを利用してほしいのは、「イケてるスタートアップの若者」ではなく「大多数の企業の普通の人たち」だ。となると次の問いは、彼らがシェアオフィスを使うには何が必要か? ということになる。当然、先ほどの2つの関係を解消する「おしゃれすぎない」「強固なセキュリティ」も必要だが、実は本当に必要なものがある。

 日本の大多数の普通に働いている人々にとって一番大事なのは、「上司が許可してくれるかどうか」だ。

 ここではじめて、三井不動産という日本最大のデベロッパーにして絶大な社会的信用度を誇る会社が、後発でもあえて手掛ける「意味」が生じる。簡単な話、上司は「三井不動産みたいなデカいとこがやってるんだから、大丈夫だろう」とハンコを押しやすい。聞いたことのないスタートアップでは、そうはいかない。

 三井不動産が手掛けるシェアオフィス事業「WORKSTYLING」は、「御社の社員に働き方改革させませんか?」という触れ込みで展開した。家族がいて、早く帰って子どもの世話をしなきゃいけない人も、自宅マンションの近くにあるシェアオフィスでリモートワークができる。

 従来のリモートワークは勤怠管理がネックだった。部下が外で働いたとしても、本当にサボらず働いていたかどうか、上司が把握できない、だから許可できない。しかし「WORKSTYLING」の場合、入り口でスマホをかざせば、社員の誰がいつ入っていつ出たかがわかる。その使用時間分の料金はまとめて会社に請求が行く。上司としては、部下をめちゃめちゃ管理しやすい。

 結果、WeWorkとは明確にターゲットをずらせた。これが、先行者がいる市場で“広がるモノを作る”ということだ。

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