『利己的な遺伝子』のリチャード・ドーキンス、
『時間は存在しない』のカルロ・ロヴェッリ、
『ワープする宇宙』のリサ・ランドール、
『EQ』のダニエル・ゴールマン、
『<インターネット>の次に来るもの』のケヴィン・ケリー、
『ブロックチェーン・レボリューション』のドン・タプスコット、
ノーベル経済学賞受賞のダニエル・カーネマン、リチャード・セイラー……。

そんな錚々たる研究者・思想家が、読むだけで頭がよくなるような本を書いてくれたら、どんなにいいか。

新刊『天才科学者はこう考える 読むだけで頭がよくなる151の視点』は、まさにそんな夢のような本だ。一流の研究者・思想家しか入会が許されないオンラインサロン「エッジ」の会員151人が「認知能力が上がる科学的概念」というテーマで執筆したエッセイを一冊に詰め込んだ。進化論、素粒子物理学、情報科学、心理学、行動経済学といったあらゆる分野の英知がつまった最高の知的興奮の書に仕上がっている。本書の刊行を記念して、一部を特別に無料で公開する。

私たちの誰もが世界を正しく知覚できないPhoto: Adobe Stock
著者 デイヴィッド・イーグルマン
神経科学者、ベイラー医科大学知覚行動研究所ディレクター、神経科学と法に関するイニシアティブ。著書に『あなたの知らない脳』(大田直子訳、早川書房、2016年)

どの生物も
世界の断片しかとらえられない

 1909年、生物学者ヤーコプ・フォン・ユクスキュルは、「環世界説」を提唱した。ユクスキュルがこの言葉で表現したかったのは、たとえ同じ生態系のなかにいても、その環境から受け取る感覚情報は生物ごとに違っているという単純な(しかし見過ごされがちな)事実だった。

 たとえば、ダニのなかには視覚や聴覚がないものがいるが、そういう生物にとっては、温度や酪酸(らくさん)のにおいといった情報が非常に重要になる。ブラックゴーストという魚にとっては電場が重要だ。エコーロケーション(自分の発する音波の反響によって周囲の状況を知ること)をするコウモリにとっては、空気圧縮波の情報が欠かせない。

 このようにどの生物も、環境に存在する情報のごく一部だけを受け取っている。つまり世界の断片だけをとらえているのだ。その断片が「環世界」である。とらえられない部分も含めての世界全体がどういうものかは誰にもわからない

 ただし、個々の生物はおそらく、環世界が世界のすべてだと信じて生きている。この世界は当然、私たちの感じている環世界よりも広いのに、通常、それを意識しない。

 映画「トゥルーマン・ショー」の主人公、トゥルーマンは、テレビ番組のプロデューサーが作りあげた世界のなかで暮らしている。映画のなかで、あるインタビュアーがプロデューサーに「なぜトゥルーマンは、自分を取り囲む世界の真実にまったく気づきもしないんですか」と尋ねる。プロデューサーはこう答える。「私たちは皆、自分の目の前に提示された世界をそのまま受け入れているのですよ」