複雑奇怪な組織図
公告の取り消しまで行う悪質さ
NP社による3方向の“踏み倒し”総額は、単純計算でも推計100億円を超えることになりそうだ。
NP社の決算上の売上高は、18年12月期は約5億円で、翌年には約3倍の15億円。メガバンクからも10億円以上の融資を受けているとみられ、経営不安の兆しはあまり感じられない。
資本提携も積極的だ。「NP社は金に困っているベンチャー企業に投資しているようだ」とNP社の関係者は証言する。19年5月にはアプリ「temite」を提供するCreation City Labに、NP社から3000万円を出資するリリースを発表。この他にも複数の企業に出資しているもようだ。
「高木氏本人は情報商材を販売していた過去や、18年には訴訟で債権を差し押さえされたなどトラブルを抱えているため、企業の上場に関わることは難しいからではないか」(前出の関係者)
一方、肝心の決済用タブレット事業の方は、「NP社の製品は使い勝手が悪く、事業としてうまくいっていなかった」と別の関係者は明かす。
そしてNP社は決済事業の過程で、さまざまなカラクリを使い、合法的に債権を踏み倒す仕掛けを作り続けているように見える。
まず、初めから「NP社」と「NT社」を切り分けて、債務はNT社に集中させた。代理店や端末オーナーに話を持ち掛ける際、高木氏らはNP社の名刺を出していたという。その一方で、「NT社は子会社」と伝え、契約書上はNT社と契約させている。
また、2019年3月に、同年4月1日にNP社とNT社を合併させるという合併公告を出し、代理店や端末オーナーを信用させた。ところが同年3月29日にひっそりと合併公告の“取消公告”を掲載。それどころか、NP社とNT社の資本関係も解消した。
取消公告を見つけるのは一般的には非常に難しく、またNP社のHP上での告知も全くないことから、当事者たちが「NT社がNP社と資本関係にある」と誤認したままだった可能性が高い。
代理店と端末オーナーはNT社と契約しているが、先述の通りドコモなどから実際の利用客のカネが流れるのはNP社であった。NP社からの入金がなければ、NT社は破綻する。資本関係もないNT社が破綻したところで、NP社には痛くもかゆくもない。
ただし、これが違法行為であるかというと、「法的に問題があるかを問うのは非常に難しい」と消費者問題に詳しい弁護士は話す。
その理由は、契約主体が中小零細企業などの法人であるため、契約書に問題がなければ罪に問えないからだ。消費者保護で守られるのは、法人と消費者間のトラブルで、「裁判所も法人には厳しい。『NP社の運用するサービスなのにNT社と契約してしまう側も悪い』という判断になりかねない」(前述の弁護士)。
「口頭で関係会社だと説明を受けた」という複数の証言があり、代理店や端末オーナーから入手した営業資料などを見ても、NP社とNT社が同一グループであるように見せている。ところが、契約書のどこにもNP社の名前は見当たらない。
決済関連のトラブルにもかかわらず、監督官庁はあいまいだ。消費者庁でもなく、金融庁と経済産業省のいずれも、「決済端末サービスを取り扱う企業については、われわれの管轄ではない」と話す。NP社が所属する一般社団法人キャッシュレス推進協議会は官民連携の機関で、監督機能はない。決済端末サービスは、お上の目も届いていないのだ。
NT社は「(債務を)整理する」と経営破綻をにおわせ、昨年12月に「NT残余財産分配」へと社名変更した。ところが、4カ月たった今も債務整理をしている予兆はない。「破産を明言して社名変更するような場合は、債権者に伝えた後速やかに処理するのが一般的なのだが」と帝国データバンク横浜支店の内藤修氏は首をかしげる。
しかも、NT社に加え、今年3月からNP社も支払いが滞っており、こちらも信用不安が高まっている。
取消公告を出したり、社名をコロコロ変えたり、入金先を全く資本関係のない会社に変えるというのは、「うさんくさい会社がやる手口」(内藤氏)と断じる。NT社、NP社は共に計画的に破綻させ、意図的な踏み倒しの可能性も高い。
不可解な契約を繰り返すNP社だが、ドコモやアマゾン、宮崎県都城市など行政とのキャッシュレス推進事業や実証実験、韓国・ハナ銀行との提携など、大手との取引については大々的にアピールしている。
確かにドコモには何の落ち度もない。だが、決済で支払われた金が最終的に店舗に落ちていないことを知りつつ放置していることは、回り回ってNP社をめぐるトラブルに加担していることになってしまう。
キャッシュレスバブルに踊った人々の宴(うたげ)の後に何が残るのか。早急に国は手綱を引き締めるべきだろう。