コロナの死者数と結核感染率や
BCGワクチン接種率は負の相関?

 札幌医科大学フロンティア医学研究所の有志によって、世界の国々の報告をもとに人口100万人あたりの感染者数や死亡者数を時系列にグラフ化したサイト(https://web.sapmed.ac.jp/canmol/coronavirus/death.html)が立ち上げられている。このインタラクティブなグラフから主要な国を抽出したものが下の図2だ。

国別の死亡率の推移図2 世界の主要国の人口100万人当たりの死者数の推移 出所:札幌医科大学フロンティア医学研究所
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 死亡者が初めて報告された時期や、最新の人口100万人あたりの死亡者数は異なるものの、グラフの“傾き”の大きい国と緩やかな国があることが一見して分かる。

 傾きが急であることは、COVID-19感染によって死亡者が急増しやすい国であることを意味する。やはり、イタリア、スペイン、フランス等の欧州諸国や米国の傾きはきつく、中国や韓国、そして日本(茶色)の傾きは緩い。

 なぜ国によってこのような違いがあるのだろうか。

 そもそも、普通の風邪にせよ、季節性のインフルエンザの場合にせよ、周りで感染症が流行っていても発症しない人がいる。COVID-19の場合も、重症化する感染者は2割程度とみられ、特に高齢者や基礎疾患のある人のリスクが高いと思われた(最近では若い感染者も増加しつつある)。

 従って、感染者数や死亡者数を国別で比較した場合には、人口構成比で高齢化率の高い国の方がCOVID-19に対して脆弱になることは容易に想像できる。そして日本は代表的な超高齢化国だ。

 ただ日本では、挨拶のときの接触が少なく、風邪をひいたときや花粉症の予防などを目的としてマスク着用が一般的である。このような生活習慣などに加え、それぞれの国の医療制度やその充実度などの要因も、国による死亡率推移の差としてあるだろう。

 また生物学的な要因としては、いわゆる“人種”の差を生み出すゲノム情報の差異が考えられる。移民の問題も加味されると状況はさらに複雑だ。

 そうこうする間に、国ごとのCOVID-19による死亡率の違いは、古典的な感染症である「結核」の発症頻度や、関連したBCG接種のポリシーによる差が関係するのではないか、という話題がSNS上で盛り上がってきた。これは各種のデータがウェブ上に公開され、誰でも見られる時代となったからだ。

 WHOのデータによれば、結核が撲滅された欧米諸国では人口10万人あたりの結核感染者数は25人未満だ。その一方で、欧米のCOVID-19の死亡者は急増中だ。

 これに対し、中国や韓国では25人以上、100人未満。モンゴルでは結核の感染者数は人口10万人あたり300人以上報告されているが、なんとCOVID-19の死亡者はまだいない。

 では、日本はどうかというと、戦前の死因の第1位は結核だった。「肺病」とも呼ばれた一般的な疾患で、死に至ることも多かった。だが現在では人口10万人あたりの結核感染者数は25人未満。にもかかわらず、COVID-19の死者数の割合は非常に少ないのだ。

 ここでさらに「BCG接種」という要因が登場する。

 BCGとは、結核予防のためのワクチンで、結核菌を弱毒化したものだ。日本では、かつてはツベルクリン反応(ツ反)検査で陰性の(つまり、まだ結核菌に感染していないと考えられる)人にのみ接種されていたが、現在は生後1歳未満の赤ちゃんを対象に接種が義務付けられている。あの「9本針のスタンプ注射」の接種率は98%に上る。

 欧州諸国はほとんどの国でBCG接種のプログラムがない。ドイツと国境を接するポーランドではBCG接種が為されているが、図2のカーブの傾きはポーランドでは他の欧州諸国より立ち上がりが若干緩いように見える。

 まだ査読が済んだ段階ではないが、「プレプリント」としてmedRxivというサイトに公開されている分析結果では、BCGの接種プログラムのない高所得国のCOVID-19による死亡者の割合は、高齢化率を加味してもBCG接種が義務付けられている中~高所得国より高いとされている。

 これは単なる偶然の一致なのだろうか?