「そうですね、インピンジメント症候群にしても五十肩にしても、痛みが強いときは炎症が起きているので安静にしないといけません。湿布と痛み止めを出しておきますから、1~2週間は安静にして様子を見てください」

「え、それは困ります。もうすぐテニスの大会があるんで、それに間に合うよう治したいんですが。練習もしないといけないし」

「ううん、それは許可できませんね。インピンジメント症候群は、悪化すると腱板断裂といって、上腕の骨と肩甲骨をつなぐ腱が切れてしまうことがあります。五十肩なら自然に治ることがほとんどですが、腱板断裂になったらもう自然には治らないし、肩に力は入らないし、痛みもずっと続きますよ。それでもいいんですか。手術が必要になりますよ」

「いやぁ、それは困ります。なんとかうまく、早く治せないんですか」

「何歳になってもテニスを楽しみたいのでしたら、無理せず、しっかり治療したほうがいいですよ。この病気は、間違った姿勢や体の使い方が大きな原因になっています。今日は理学療法士から、姿勢指導と正しい体の使い方、筋力の強化をはかるリハビリについて説明させていただきます。炎症が治まり次第開始して、最低でも3カ月続けてください。併せて、早く治るよう鍼灸とマッサージ治療も受けていただきます。ちゃんと治せば、今よりも故障しにくい体になれますよ。故障したことがプラスになるよう頑張りましょう」

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 懸命なリハビリと鍼灸・マッサージ治療の結果、ヤスオさんは2カ月ほどで回復し、テニスを再開することができた。今では、治療してくれた整形外科医とそのスタッフに全幅の信頼をおいている。ただ一方で、「五十肩は動かしたほうがいい」と助言した事務員に対しては、「いいかげんなことを言いやがって」と不信感を抱いている。「病院に行った方いい」と勧められたのに無視したことは都合よく忘れてしまった。

「いいか、インピンジメント症候群はね、肩だけでなく、股関節でも起きるらしいぜ。俺は理学療法士から、足の動かし方や正しい筋トレの仕方も指導してもらっているから心配ないけどね。やっぱアスリートはさ、自分の体に対する知識を持っていないとだめだな。教えてやろうか」

 社員はもとより、テニス仲間やクライアントの社員にも偉そうに自慢しては、煙たがられるヤスオさんだった。

(医療ジャーナリスト 木原洋美)

※本稿は実際の事例・症例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため患者や家族などの個人名は伏せており、人物像や状況の変更などを施しています。