「不要不急のご相談」が
オペレーターを苦しめている
東京都内で働くCさん(20代、男性)は、派遣のオペレーターだ。スマートフォンの操作に関する問い合わせを担当している。コロナ以降、入電(問い合わせ)件数が平時の2.5~3倍に増えた。「5倍という日もありました」(Cさん)。しかも、内容的にどう見ても不要不急としか思えない問い合わせの増加が目立つという。
「待ち受け画面を変えたいんだけど」
「アプリの並び順を変えたい。やり方を教えて」
「このアイコンは何?」
こうした質問を受けるたび、Cさんはこんなふうに思ってしまう。「自宅待機が長引き、暇を持て余してかけてきたとしか思えない人がいます。高齢者に多いです。私が答えると、『あ、そう』と言って電話を切る。履歴を見ると、同じ人が毎日何度もかけてきたりしています。その問い合わせ、いま必要?」
職場は、座席の間隔を空けたり、受付件数を減らしたりといった対策を講じている。とはいえCさんは、出退勤時の感染リスクはゼロではないと感じている。「本当に緊急性の高い業務を担うコールセンター以外は、1日も早く閉鎖して、オペレーターに休業補償をすべきです」と訴える。
3密環境を改善してほしい、自治体から職場に休業を要請してほしい、その間の給与を補償してほしい――オペレーターたちの不安や要求はさまざまだ。職場環境が改善されれば働き続ける意欲がある人も多い。問題は、オペレーターの大半はそういった多様な要望を職場に要求しづらい立場であるということだ。
オペレーターの9割は、契約社員や派遣社員などの非正規雇用とされる。給与水準こそまずまずだが、1カ月や3カ月といった「超細切れ雇用」を繰り返す人が多い。欠勤したり、待遇改善を求めたりすると査定に響き、最悪の場合、雇い止めに遭う恐れもある。オペレーターたちが匿名のツイッターを通じて職場への怒りやSOSを発信するのは、彼らの雇用が不安定であることの表れでもある。
今、オペレーターたちの間で羨望(せんぼう)の対象になっているのが、緊急事態宣言の発令後にコールセンターの全面的な在宅勤務を始めた損害保険会社のチューリッヒ保険だ。Aさんは「企業の意識の差を見せつけられました。オペレーターも長く働いてもらいたい人材として扱われているんだなと感じます」と話す。
KDDI子会社に対し、労働組合・総合サポートユニオンを通して団体交渉を申し入れている契約社員の女性は、不要不急の業務を縮小することや、部分的なテレワークの導入などを求めている。総合サポートユニオンの青木耕太郎共同代表は、「KDDI子会社が特に悪質というわけではなく、コールセンターの典型といえる実態だ。オペレーターは働いてコロナに感染するか、仕事を休んで生活が苦しくなるかという二者択一を迫られている。今回の申し入れを全国のオペレーターが安心して働けるようになるきっかけとしたい」と話す。
オペレーターには3密を耐えて働き続けるか、収入や雇用継続をあきらめるかの二者択一しかないのか。そんなことはない。今こそ企業が知恵をしぼるときだ。
新型コロナで誰もが未曽有のショックに直面しています。収入や仕事を失う労働者。その半面には、企業や店舗が何とか生き残ろうとしている姿があります。だが「誰もが苦しい」と言って、黙ってしまっては何も変わらない。まずは「何が起こっているのか」の現実直視から始めたい。ダイヤモンド編集部は、コロナ禍での雇用・収入に関する問題を取材しています。情報やご意見をお持ちの方は、diamondweekly[at]diamond.co.jp(送信時は[at]を半角のアットマークに変換してください)までお寄せください。