そして、長友を東福岡へ進学させた経験が、美枝さんにある決意を促した。子どもたちが長い人生を歩んでいく上で、複数の選択肢を持てる状況にさせてあげたい、そのために何よりも大切なのは学歴だ――。そう考えた美枝さんは、3人に大学を卒業させるための青写真を意外な形で描いている。

「どのような進路でも選択できるための費用を一人について1000万円と計算して、佑都の高校進学を機に、掛け捨てで3000万円の生命保険に入りました。もちろん子どもたちには知らせていませんが、それでも私が腹を括った、という雰囲気のようなものは伝わったと思います」

 福岡へ向けて自宅を出た長友は西条北中に立ち寄り、感謝の思いを込めて広大なグラウンドを一人で整備している。そして、井上教諭に見送られながら、不退転の決意を大きな叫び声に込めている。

「オレは絶対にビッグになるけん! 絶対にプロになるけん! 見てろっ!」

母への感謝の気持ちが
支援活動への原動力に

 東福岡の卒業を前にして、残念ながらプロから声がかからなかった。スポーツ推薦も得られず、指定校推薦で明治大学へ進んでからは、卒業後は必ずビッグな男になって美枝さんに恩返しをする、という思いがますます強くなった。姉はすでに私立大学へ通い、後に弟も続いている。

 万が一、サッカーで大成できなかった状況を考えて、政治経済学部政治学科を選んだ長友は「職種などは具体的に考えていませんでしたけど、大企業に入ってバリバリ働くことも考えていた」と大学時代に抱いた思いを明かしたことがある。祖父から隔世遺伝されている、と美枝さんから暗示をかけられていた脚力を生かし、競輪選手になるのはどうだろうかと井上教諭に相談したこともあった。

 もちろん、一流企業のサラリーマンになる道も、そして競輪選手になるプランも幻に終わる。椎間板ヘルニアを煩うなど、明治大学体育会サッカー部に入部後も苦難の時期を味わわされた長友を飛躍させたのは、当時の神川明彦監督に命じられたボランチからサイドバックへのコンバートだった。

 中学時代に駅伝部まで創設した井上教諭から、徹底的に課されたランニングで培われたスタミナ。身長の伸びが170cmで止まった高校時代から、自らに毎日課してきたウエートトレーニング。そして、カップラーメンなど脂肪分の多いものを一度も口にしたことのない自己節制。すべてがサイドバックに必要とされる、衰えを知らない運動量と1対1における無類の強さの源泉になっていた。

 迎えた2007年の春。FC東京の練習試合で見せた右サイドバックとしての異彩を放つプレーが、3年生の秋になって正式な入団オファーとして届いた。熟慮した末に「一刻も早くビッグになる」という道を選んだ長友は、4年生を前にしてサッカー部を退部してJリーガーになった。

 FC東京の左サイドバックとして何度も見せた、例えるならば「火の玉」のようなプレーは日本代表を率いていた岡田武史監督をも魅了。瞬く間に必要不可欠な存在となった長友は、南アフリカワールドカップでの大活躍を経て、戦いの舞台を一気にヨーロッパへと昇華させた。

 FC東京からチェゼーナへ旅立って、この夏で10年になる。セリエAを代表する名門のひとつ、インテルで7年間もプレーし、いま現在はトルコの強豪ガラタサライに所属。日本代表における出場試合数はサイドバックとして最多、歴代では2位タイとなる122にまで伸ばしている。

 3大会連続で出場中のワールドカップでは、歴代1位タイの通算11試合に出場。33歳にして歴史に名前を刻むまでに至った原動力をたどっていくと、美枝さんへの恩返しがしたいという思いに行き着く。

 そして今、猛威を振るい続ける新型コロナウイルス感染によって、日本を含む世界が未曽有の非常事態に直面している。予断を許さない状況が続く中で、長友がひとり親世帯を支援する寄付金を募るクラウドファンディングプロジェクトを立ち上げた理由はどこにあるのか。

 緊急企画を告知するページ(https://readyfor.jp/projects/save-singleparent)で「ひとり親世帯はただでさえ厳しい状況にもかかわらず、このコロナの影響によってさらに厳しい状況になっています」と訴えた長友は、美枝さんへ抱き続けてきた思いをこんな言葉で表現している。

「僕は幼い頃、母に女手ひとつで3人の姉弟を育ててもらいました。幼いながらも経済的に厳しかったのは理解しています。それでも一生懸命母の働く姿を見てきました。そして自分が大きくなったら絶対に母に恩返しをすると、幼いながらに決めました。(中略)僕自身、日本代表として皆さんにたくさんのパワーをもらってここまで走ってきました。次は僕がパワーを届ける番だと思います」

 5000万円を目標にすえて、4月24日から今月11日午後11時までの期間でスタートしたプロジェクトには、まずは長友自身が500万円を寄付。5日17時現在で1083人から2346万4000円が集まっている。