さて、今度はこれらのラクガキに「共通点」を探してみましょう。
 個人が好き好きに描いたので、どの絵もてんでバラバラに見えますが、「6つの絵すべてに共通しているポイント」を探してみてください。

「④以外の絵は平面的だよね」
「⑤以外はどれも、自然界に存在するものがもとになっているよ」
「④と⑤以外は紙全体を使って描かれている」
「う~ん、あえていえば、どの絵にも輪郭線がある点かな……」
「鉛筆で描いているから当然だけど、どの絵も白黒」
「白い範囲が圧倒的に多いこととか?」

 いくつかの絵の共通点は出てくるものの、「すべての絵に共通すること」となると、なかなか難しいようです。あなたは「すべての絵の共通点」を見つけることができましたか?

 みなさんのラクガキにどんな共通点があるのかはいったん置いておき、今回から取り上げるアート作品のほうに移りましょう。

 ここでは、ジャクソン・ポロック(1912~1956)というアーティストが1948年に発表した《ナンバー1A》という絵を題材にします。

 縦の長さは成人男性の身長ほどある、およそ1・7メートル、横の長さはおよそ2・6メートル。かなり大きな作品だということを念頭に置いてご覧ください。

ジャクソン・ポロック《ナンバー1A》(MoMA webサイト)

歴代5番目の超高額で取引されたアート作品

 これまでのクラスで扱ってきた4人のアーティストたち(マティス、ピカソ、カンディンスキー、デュシャン)は、当時のアートの中心地とされていたヨーロッパ(とくにフランス)を拠点として活動しました。

 それに対して、ポロックは、第一次世界大戦の直前にアメリカで生まれ、ニューヨークで活動したアーティストです。

 長引く大戦の犠牲となった当時のヨーロッパでは、国土と経済が疲弊していきました。その一方で、戦禍を免れ勝利を収めたアメリカが、国際社会の中心的存在となっていきます。

 この流れに伴い、アートの中心地もパリからニューヨークに移っていきました。長い歴史を誇り、伝統的なアートを重んじる傾向がまだまだ色濃かったヨーロッパに比べ、アメリカでは新時代のアートが勢いよく広がっていきます。

 そんな潮流のなか、決定的な役割を担ったのがポロックでした。ポロックの《ナンバー1A》は、今日に至るアートの歴史のなかでも高く評価されており、同時期に同じ手法で制作された《ナンバー17A》は、歴代5番目の超高額で取引されたアート作品としても知られています。

 ……しかし、いかがでしょう?

 おそらく多くの人は「こんなぐちゃぐちゃな絵が高く評価されているなんて……これだからアートの世界はわからないな」と首をかしげているのではないかと思います。たしかに、そこまで高価な絵には見えません。

 次回は、なぜこの絵が高く評価されているのかについて、作品と向き合いながら考えていきたいと思います。