歴代5位!“超高価なラクガキ”で、アート作品の「隠された前提」を考えるPhoto: Adobe Stock

 とある美術教師による初著書にもかかわらず、各界のオピニオンリーダーらやメディアから絶賛され、発売3ヵ月で5万部超という異例のヒット作となった『13歳からのアート思考』。

 先行きが不透明な時代だからこそ知っておきたい「自分だけのものの見方」で世界を見つめ、「自分なりの答え」を生み出す思考法とは? 同書より一部を抜粋してお届けする。

「気づかれていない共通点」がまだどこかにある

 アート思考は、過去に存在した「正解」に左右されることなく、「自分だけのものの見方」を通じて、「自分なりの答え」を探究する営みです。20世紀のアーティストたちはまさにそうしたプロセスを経ることで、独特な「表現の花」を咲かせてきました。

 彼らの主眼は見事な「花」をつくりあげることよりも、「探究の根」を伸ばすことにありました。ですから、結果として生み出される作品は、しばしば異様なものとして私たちの目に映ります。

 あろうことか「男性用小便器」をアート作品だといってのけたデュシャンに至っては、「いよいよ来るところまで来たな~」という感じがしますよね。

 デュシャンはそれまでのアートが依拠していた「視覚中心の鑑賞」という前提すらも、取り払ってしまいました。さすがにもうこれ以上は先に進めないように思えてきますが……それでも、まだまだ彼らの冒険は続きます。

 アート作品を鑑賞・制作するとき、私たちはまだなにか前提を置いているのでしょうか?
 「アートといえば、○○なのがあたりまえ」という常識が、依然としてどこかに入り込んでいるのでしょうか?

 そのような常識や前提というのは「色メガネ」のレンズのようなものです。私たちはつねに「それ」を通じてアート作品を見るのだけれど、それ自体は決して「見えない」――そんなものがまだどこかに隠れているとしたら……?

 今回から数回にわたっては、「私たちの目には『なに』が見えている?」という問いについて掘り下げていきたいと思います。

■執筆者紹介
末永幸歩(すえなが・ゆきほ)

美術教師/東京学芸大学個人研究員/アーティスト
東京都出身。武蔵野美術大学造形学部卒業、東京学芸大学大学院教育学研究科(美術教育)修了。
東京学芸大学個人研究員として美術教育の研究に励む一方、中学・高校の美術教師として教壇に立つ。「絵を描く」「ものをつくる」「美術史の知識を得る」といった知識・技術偏重型の美術教育に問題意識を持ち、アートを通して「ものの見方を広げる」ことに力点を置いたユニークな授業を、都内公立中学校および東京学芸大学附属国際中等教育学校で展開してきた。生徒たちからは「美術がこんなに楽しかったなんて!」「物事を考えるための基本がわかる授業」と大きな反響を得ている。
彫金家の曾祖父、七宝焼・彫金家の祖母、イラストレーターの父というアーティスト家系に育ち、幼少期からアートに親しむ。自らもアーティスト活動を行うとともに、内発的な興味・好奇心・疑問から創造的な活動を育む子ども向けのアートワークショップ「ひろば100」も企画・開催している。著書に『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』がある。