これまでの産業構造を維持し続けた場合、わが国の経済は米中を中心とするIT先端分野などでの新しい取り組み、それによる変化に取り残されてしまう恐れがある。仮にその展開が現実のものとなれば、内需の低迷には拍車がかかり、経済と社会全体でかなりの閉塞感が広がるだろう。

 歴史を振り返ると、疫病との戦いは世界経済を大きく変えた。14世紀に世界を襲ったペストは、欧州における封建制度の崩壊を通して教会の影響力を低下させ、ルネサンスにつながった。1918年に発生したスペイン風邪は、第1次世界大戦の終結を早めたとの見方がある。コロナショックを受け、米国では産学連携などを起点に、大学が開発したフェースシールドを自動車メーカーが生産するなど、部分的にオープンイノベーションが起きている。中国では、国家資本主義体制の下で経済活動だけでなく医療などのデジタル化が進んでいる。

 ある意味、わが国はコロナショックをチャンスに変えなければならない。これまでの発想や価値観にとらわれずに、新しい取り組みを積極的に進めなければ世界全体の構造変化に遅れてしまう。感染を早期に食い止めた韓国でさえ、鉄鋼、金融、石油化学、航空など在来分野の業況は悪化している。感染対策が後手に回ってしまったわが国は、内需、外需の両面においてそれ以上に厳しい状況を迎えていることを直視しなければならない。

 わが国の政府は今後の経済運営をどう進めるか、国としての基本方針を固めるべき時を迎えている。5Gやデータセンター関連の新しい機器や基盤などの部材開発と生産に向け、産学連携の強化や専門知識と技術を持つ人材が活躍できる環境の整備は急務だ。政府は基礎分野での新しい取り組み推進に向けて、規制緩和や構造改革を大胆に進める必要がある。今後、わが国がそうした課題をいかに乗り越えることができるか、今、大きな岐路に立たされている。