マスクと除菌スプレーのみで
体調不良の高齢者に濃厚接触

 室内では高齢者の様子を確認したり、介助したりするので、「濃厚接触」は避けられない。この時、Aさんが対応した女性は病院に緊急搬送された。対応を引き継いだ救急隊員は最近では感染リスクの高さが指摘され、出動時に防護服を着用することも増えている。この間、徳島市や奈良市などはすべての救急出動時に高性能マスクやゴーグル、シューズカバーなどでフル装備することを義務づけたほどだ。

 消防庁は救急隊員のリスクを減らすため、ウイルスの拡散を防ぐカプセル型のストレッチャーの配備を進めている。自治体によっては、飛沫感染を防ぐため車内をビニールシートで覆った救急車を用意しているところもある。これが医療サイドの“常識”である。翻って、体調が悪いという高齢者の元に最初に駆け付け、最も高いリスクを負うはずのAさんら警備員の身を守るものは「マスクと除菌スプレーくらいでしょうか……」。

 Aさんが勤務する詰め所では、3、4の両月で、こうした訪問が10件ほどあった。センサーに反応がないので訪問してみたら、すでに亡くなっていたというケースも数件あった。後になって、病院に搬送した救急隊員らから「コロナではなかった」との連絡があるが、「これもマニュアルに沿ったものではなく、心配する私たちを見かねた救急隊員が善意で連絡をくれる」のだという。

 出勤している警備員は盗難や火災などの警報も含めて順番に出動するので、いつ、だれが高齢者の安否確認にあたるか分からない。たとえは悪いがロシアンルーレットのようなものだ。Aさんは「万が一、(高齢者が)コロナに感染していた場合は、戻ってきた隊員からうつる可能性もあります。呼び出しがあった時は詰め所全体が緊張します」という。

 高齢者の安否確認に限らず、警備員たちの仕事は意外と幅広い。ビルの巡回警備や交通誘導、現金輸送のほか、個人宅に設置された火災やガス漏れ警報器の作動による訪問、マンションの受水槽や排水槽といった施設に異常が起きたときの初期対応、自動車事故や銀行の現金自動預払機(ATM)が故障した際の駆け付けサービスなども担っている。

 Aさんの詰め所は住宅街のほか、繁華街などの地域も担当。飲食店やスーパーなどが休業したり、営業時間を短縮したりして人通りが少なくなっているので、夜間の治安が悪化している。最近は侵入や盗難による急行が増加傾向にあるという。

「先日も駆け付けたら、お店のガラスの扉が割られ、内部が荒らされていたということがありました。警報が鳴るのはだいたい深夜。1人で出動するので万が一(犯人と)出くわしたらという怖さもあります」