ステイホームは有給休暇か
無給の欠勤扱いで
Aさんの派遣元は主に保育士や看護師、介護士といった福祉・医療分野の人材供給を手掛ける派遣会社。派遣先は保育園を運営する自治体だ。保育士のうち、Aさんと同じ派遣職員は数人で、全体の1割ほど。ほかは自治体から直接雇用された正規の公務員や任期付きの会計年度任用職員などである。Aさんの時給は1350円だという。
Aさんが1時間だけ出勤して帰った日から数日後、直接雇用の保育士らの交代勤務が決まった。もちろん休業手当は出て、支給率は給与の10割である。一方、Aさんら派遣保育士たちはそれまでと同じように出勤を続けた。
その後も登園する子どもは減少。担当するクラスの子どもがゼロという日もある中で、Aさんは教室を掃除したり、おもちゃの消毒を繰り返したりして時間が過ぎるのを待った。強制はできないと言いつつも、正規の保育士や園長からはたびたび「今度のお休みはいつなの?」などと言われるようになったという。
Aさんら派遣保育士は、休むことができなかったのか。
「私たちだって休みたいですよ。不要不急の外出や3密を避けろという要請を考えたら、むしろ休むべきだと思います」とAさんは憤り、こう続けた。
「私も含めて派遣保育士たちは派遣元の担当者に電話やLINEで休ませてほしいと何度もお願いしました。でも、担当者からは『お休みされるのは構いませんが、その場合は個人の理由になるので欠勤扱いです』『(それが嫌なら)園は開いていますから仕事を探して働いてください。何かしらやることはあるはずですから』と言われたんです」
これでは派遣元と派遣先との間での板挟みだ。そして派遣保育士の怒りの矛先はどちらかというと派遣会社へと向かう。その理由について、Aさんは「(派遣先である)保育園側が少しでも感染リスクを減らすために、派遣保育士にも休んでほしいと考えるのは自然なことだと思うんです。じゃあ、私たちの感染防止や生活に責任を持つのはどこなのか。雇用主である派遣会社ですよね」と説明する。
Aさんが最初に派遣会社に不信感を覚えたのは、直接雇用された保育士たちの交代勤務が始まる直前、職場の空気を読んで数日間の休暇を取ったときのことだ。派遣会社の担当者から有給休暇として処理するよう提案されたのだ。Aさんは「有休ってこういう時に使うものじゃないはず」と思いつつも、休暇の一部に有休を充て、残りは無給の欠勤扱いになったという。
その後、「保育園に行っても仕事がないんです。派遣保育士も正規保育士たちと同じように休業できるよう、保育園と話し合ってほしい」と担当者に頼んだところ、「市役所と交渉して皆さんがこれまでと同じように働けるよう、勤務日を確保してきました」というかみ合わない答えが返ってきた。