ソニー元副会長の森尾稔氏
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コロナ禍であらゆる日本企業が難局を迎える中、ソニーの動きが力強い。金融子会社の株式公開買い付け(TOB)、AI搭載半導体の発表、新型ゲーム機・プレイステーション5の開発……。その相次ぐ布石の根底にあるのは、創業精神への回帰だ。吉田憲一郎社長は19日の経営方針説明会の冒頭で、「ファウンダーである盛田昭夫からの学びに、長期視点に基づく経営がある。新型コロナウイルスが世界を変えたいま、改めてその重要性を感じている」と語った。ソニーの精神とは何なのか?創業者を間近に見てきたソニー元副会長の森尾稔氏に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 杉本りうこ)

「企業経営はマラソンだ」
盛田昭夫氏はそう言った

 しばらく前、高木一郎君(ソニー専務、エレクトロニクス事業を担当)とお酒を飲みました。「テレビってずっと赤字だっただろう。最近やっと、利益が出るようになってよかったね」って僕が言ったら、高木君は「森尾さん、8年や9年の赤字ぐらいで諦めてどうするんですか」と返してくるんです。さらには、「サントリーのビール事業は46年間も赤字でした。それでもサントリーが諦めなかったから、今ここにプレミアムモルツがあるのですよ」と。ソニーの人からビールの話を聞かされるとは思わなかったけれどね(笑)。

――今の企業経営には短期的な成果が求められがちです。創業から5年で上場し、時価総額はユニコーン(約1000億円)で……といった具合に。株主が求めるし、社会も求めてしまう。でも実はもっと長い目線で経営すべき?

ソニー元副会長の森尾稔氏
もりお・みのる 1939年生まれ。63年東京大学工学部を卒業、ソニーに入社。小型ビデオカメラ、ハンディカムのビジネスを牽引し、副社長、副会長を経て2004年にソニーから退任。その後は沖電気工業や、横浜銀行を前身とするコンコルディア・フィナンシャルグループの社外取締役を歴任。 Photo by Y.A.

 僕はそうだと思います。そういうふうに僕らは育った、と言ったほうがいいかな。盛田さん(共同創業者の盛田昭夫氏)は常々、「企業経営はマラソンだ」と言っていました。隣の選手を気にして走っているようではいかん、自分のペースで走ればいい、と。だから四半期ごとの決算開示なんて、本当はやめたほうがいい。僕個人はそう思っています。株主には情報が必要ではありますから、もっと簡略な開示内容にすればよいと思っています。

――マラソン経営をするなら、経営者にはこらえ性が必要になりそうです。

 そうそう。偉い人ほど短気な人が多いものですからね。

 ただ、僕は、井深さん(共同創業者の井深大氏)や盛田さんの怒った顔を見たことがありません。井深さんの面白い話を1つしましょう。僕はずっと、開発部門にいたでしょう。部門では次に何を開発するかという事業計画をつくる会議が毎年あるのですが、その会議をしていると、井深さんがふらっと入って来る。そしてじっと20分ぐらい話を聞いて、ふらっと出ていくのです。その時に言い残していくのですよ。「君らがみんなで相談してあれかこれか、なんて言ったところで、イノベーションは起こせないよ」って。