「全員の意見が一致するものは
やってもしょうがない」

ソニー元副会長の森尾稔氏森尾氏の背景にあるのは、共同創業者の盛田昭夫氏と井深大氏が腕相撲をする有名な写真。吉田憲一郎社長も、この写真を背景にプレゼンテーションしたこともある。 Photo by Y.A.

――みんなで相談するのがだめなら、どうしたらいいのでしょうか。

 井深さんは「みんなが一致するようなテーマをやってもしょうがない」と言っているんです。井深さん自身、この考えに徹していました。

 その最たるものが、撮像素子半導体だと思います。岩間さん(岩間和夫氏、1976年~82年の社長)がCCD(電荷結合素子)撮像素子を手掛けたのが元々ですが、実は井深さん自身は、CCDをやることに反対だった。しかし岩間さんは「社長の道楽としてやらせてもらいます」と貫いて、それを井深さんも盛田さんも許した。普通だったら、創業者が反対したらなかなかできませんよね。これがソニーのいいところだったと思います。

 その岩間さん自身ですら、CCDの開発に苦戦していた1970年代には、「20世紀中には元を取れない(投資回収できない)と思う」と言っていました。それでも長期的にやっていくために、社長の道楽という言葉を使ったんですね。しかし結果として、今世紀中どころか80年代のうちに、ビデオカメラに搭載されて稼ぐようになりました。

――そして21世紀の今、CCDの流れを組んだCMOS(相補型金属酸化膜半導体)がソニーの稼ぎ頭となっています。

 これはソニーの撮像素子技術の「S字カーブ」がまだ成立しているということだと思います。S字カーブってご存じですか? 縦軸が性能や価値、横軸が時間と考えてください。どんな技術も開発当初はなかなか性能が上がらなくて、ある時点からドーッと進歩するものです。それがS字の急カーブの局面です。ところがある時点で進歩は飽和状態を迎え、そこから後は開発当初と同様、目覚ましい進歩というのが難しくなる。技術による差別化が難しくなって、生産規模やコストの低さの競争に突入します。

 たとえば液晶パネルだと、日本はコストが高いから、中国のような低コストかつ大規模生産ができる国にはなかなかかなわない。こういう局面になる前に、今の技術から下りて、次世代技術のS字に乗り移らないといけない。でも、次の技術が本当に可能性があるのかどうか分からないし、今ある技術のほうが性能が出るもんだから、乗り移るのはなかなか判断できないものです。