「競合がいない」場合に有効な検証法

村上:そうですね。この他に考えなくてはならないのが、比較する競合が存在しないという場合。あるいは、自社がドミナントプレイヤーになった場合ですね。こうした場合には、何を比較対象とすべきなのかが問題になるかと思います。

そうした際にお勧めなのは、ビジネスの内容では必ずしも競合とは言えないのだけれど、成長の構造が類似したサービスを参考にすること。SaaSだと分かりやすいかと思うのですが、提供している付加価値は異なるが、似たような構造で成長している他SaaS企業は参考になると思います。

例えば、HR SaaSだとしたら、海外の類似HR SaaSは自社の成長ペースを考えるうえで間違いなく参考になります。直接競合する相手でなくても、先行している他企業の成長率を見ることによって、今と同じような成長率を維持することが現実的に可能なのかを考えやすくなると思います。

MRR(月間経常収益:毎月決まって発生すると見込まれる売上。SaaSのような継続課金ビジネスで特に重視される)のように、どんどん積み上がっていく性質の数値の積み上げ速度などは、他社の先行事例と比較することによって、現実的な数字が見えてくるのではないでしょうか。

朝倉:以前もお話ししたことがありますが、SaaSは様々な指標が平準化されており、横並びで比較しやすい事業です。そのため、提供しているものが異なっていたとしても、他社を参考にしやすい業種かもしれませんね。

村上:そうだと思います。この点でSaaSは成長可能性が説明しやすい。逆にSaaS以外の業種の場合には、何を類似サービスと見るのかが、難しいケースもあるでしょう。ですが、裏を返せば、会社側が、何を比較対象として算出しているのか、そのロジックをきちんと説明することが出来れば、投資家を説得しやすい。ですので、こういった分析や市場調査は無視出来ないものだと思います。

朝倉:スタートアップの事業計画策定に限らず、上場企業のデュー・デリジェンスなどでも、同様に、類似事例を参照することはありますね。例えば、日常生活に溶け込んだ、ちょっとした嗜好品に関する価格感度を想定する場合、直接参照ができる情報がないのであれば、例えばスターバックスの事例を引いてくるなど、アナロジーを活用して説明することもあります。