成長規模が大きくなれば検証項目も変わる

村上:そうですね。また、成長率に加えて、成長規模の検証も重要です。特に、レイター期だと、成長率も重要だが、達成すべき成長の額も大きくなります。具体的には、1億円を倍にするとしたら2億円で増分は1億円ですが、100億円を倍にしようとすると増分は100億円です。これは、成長率は同じなのですが、実現可能性を加味すると、果たして同じことなのか。この部分の点検も必要だと思います。

朝倉:同じ成長率でも、1億円増やすのと100億円増やすのでは訳が違いますよね。

村上:その通りです。やはり小さい金額のときには、白地が大きいので開拓・リプレイスがしやすく、今期売上数千万に対し来期1億増、といったように、売上増額をつくりやすい。なので、成長率も達成しやすい。

一方で、売上規模が大きくなると、数%の成長の絶対額も大きくなる。その場合、「さらに100億円分買ってくれる人はどこにいるのか」がまず問題になります。本当にそんな規模の顧客がいるのか、あるいはどこから奪うのか、どこに市場があるんだということを具体的に検証する必要があると思います。

朝倉:そうですね。大きな規模の成長を計画する場合、現実的に必要なリソースとコストが計画に落とし込めているのかも重要です。大きな成長規模は何によって実現されるのか、営業なのか、だとすると営業リソースは計画に織り込まれているのか。あるいはインバウンドで獲得されるのなら、それに見合ったプロモーション予算が計画されているのか。

そのうえで、それだけの売上・ユーザー数を仮に獲得できたとしても、その状況に対応できるカスタマーサポートの確保は想定されているのか。そういったところまで具体的なリソースを想定して、コストに落とし込めているかは、重要な検算ポイントです。

村上:はい。営業やカスタマーサクセスなど、実行体制の見直しは非常に重要です。例えば、営業をいきなり年100名以上増やさなければならない計画になっていたとすると、それに呼応してマネジャーの採用も必要になってくるでしょう。今の給与水準でそれだけの人員を採用できるのかといった問題も生じます。

また、ユーザーの性質の観点でも、規模が大きくなると変化がおきます。ファーストムーバー(先行者)からマス層へと転換していくわけですが、その際にカスタマーサクセスの体制は従来通りでいいのかどうかは検証しておく必要があります。

朝倉:BtoC事業の場合、マスを狙っていくということになれば、自力でプロダクトを使いこなせる人ばかりではなくなるわけですから、よりサポートを手厚くしなければならないでしょうし、BtoB事業なら、利益率が低い顧客が増えてくるといった事態もおきます。スケールするが故に解決しなければならない課題も増えてくることでしょうね。

村上:まさにだと思います。「ユニットエコノミクス(顧客単位の採算性)は確立しています」、「TAMは大きいのでまだまだ成長します」といった説明に落とし穴がないかということですよね。事業規模が拡大した際にも、同じユニットエコノミクスが成立し続けるのか、という検証ポイントは、見落とされがちだと思います。

朝倉:常識的に考えると、面を取ろうとしたら効率は悪化します。

村上:そうですね。そこを、あえて効率が改善すると想定しているのは、よほどコストサイドでスケールメリットを生む仕掛けがあるのか、などのポイントを問われるでしょう。

朝倉:成長しても採算性を維持できる前提の計画で「保守的な見立てです」と説明されることもありますが、外部の人間からすると、規模が拡大してもユニットエコノミクスが維持できるという想定は、かなり強気な見立てに見えるということもあります。

村上:BtoCで生じがちなケースですが、規模が拡大してユーザーの獲得単価が下がる一方で、カスタマーサクセスの負担が増し、期待した程利益率が上がらないということもあります。この場合も、やはりユニットエコノミクスと規模の関係に留意したほうがいいでしょうね。