なぜ「水田に空が映っただけの絵」に惹かれるのか

 有名な方の絵で言うと、私は小野竹喬(おの・ちっきょう)という方の絵がとても好きです。小野竹喬さんは明治時代に活躍された日本画家で、晩年になるまでは“ザ・日本画”という感じの細かいタッチの日本画を描かれています。でも、晩年になってから、いきなり子どもっぽい感じの絵を描くようになりました

 私は晩年の作風が好きで、『奥の細道句抄絵』のなかにある《田一枚植ゑて立ち去る柳かな》(1976)という作品が大好きです。田植えが終わった頃の水田に、空とか、雲が映っている様子を描いた絵です。

――この絵って、素朴というか、いわゆる「うまい絵」とは雰囲気が違いますよね。末永さんは、この絵のどのあたりに惹かれているんですか?

末永 一見すると、空が描かれているようなんですが、よく見ると田んぼに水が張ってあるところに、空の青とか、雲が映り込んでいるんです。

 描き方も、以前のような技巧がすごく優れているとか、そういう感じではないんですけど、やっぱりこれって写真には絶対撮れない作品だなと思います。もちろん似たような写真は撮れるかもしれませんが、こうして絵になることで、小野竹喬さんの「自分なりのものの見方」というか、彼自身が「好きだな」「きれいだな」と感じたその瞬間が凝縮されていますよね

 アート思考とは「自分なりのものの見方で世界を捉えて」「自分なりの答えを生み出し」「その結果、新たな問いを世の中に投げかける」というプロセスだという話をしましたが、小野竹喬さんのこの絵は、まさに「自分なりのもの見方」で世界を捉えた作品だと感じます。

もう“みんなの意見”に流されない。<br />「自分なりの視点」がある人になる3つの方法

「自分なりのものの見方」を
身につけるための3つの方法

――これまで「アート思考」の話をお聞きするなかで「自分なりのものの見方」という話が何度も出ていますが、日常生活のなかで、少しでも「自分なりのものの見方」を磨くというか、身につける方法はありますか?

末永 とてもシンプルな方法として、私は次の3つをおすすめしています。

 1. 違和感を見つける
 2. 感情を書き留める
 3. 写真を撮る

 1の「違和感を見つける」は、私のオリジナルではありません。私の本の巻末解説を書いてくださった戦略デザイナーの佐宗邦威さんが『直感と理論をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』で提唱されている「違和感ジャーナル」という方法を参考にしました。私の授業でも実際に取り入れてみたりもしています。