なぜ中高生向けの「美術」の授業で、「自分なりの答えを見つける力」が育つのか?

 いま、中学教師による実際の「美術」クラスを再現した『13歳からのアート思考』という書籍が話題になっているのをご存じでしょうか?
 「技術と知識」に偏った従来の授業とは異なり、「ものの見方を広げる力」や「自分なりの答えを見つける力」を育むことができると教育関係者のみならず、多くのビジネスパーソンからも熱い注目を集めています。
 なぜいま、「アート」というキーワードが取り沙汰されているのか?
 美術は、どのように私たちの生活や生き方に役立つのか?
 いままで誰も語ってくれなかった「『図工・美術』が持つ本当の意味」について、著者である美術教師・末永幸歩さんに聞いてみました。今回より全4回にわたってお送りします。
(取材・構成/イイダテツヤ、撮影/小杉要)

「美術を学ぶ」のではなく、「美術を題材にして学ぶ」

――末永さんの『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』を拝読しました。この本は、実際の授業をもとにされているそうですが、本当にユニークな授業ですよね。末永さんは、なぜこんな「美術」の授業をやってみようと思ったんでしょうか?

末永 そもそもは、教員としていくつかの違和感を持っていたからですね。

 私は中学校・高校で美術教員をしてきたのですが、地域の学校が参加する美術展があったとき、ある学校の出展している作品がすごく見栄えがよかったんです。自画像が並んでいるんですけど、とてもよく描けていて。

 でもよく見ると、どの生徒の作品も描き方がまったく同じ。40人の生徒がまったく同じ「ものの見方」をして、同じ描き方をするなんてあり得ないですから、それを見たとき「これは美術教師が『1つの同じものの見方』を教えて、同じ描き方ができるように指導されたものなんだろうな……」と違和感を覚えたんです。

 私が所属していた学校内でも年1回の学習発表会があって、美術の授業としても何か発表するんですが、やっぱりどうしても最終的なアウトプットというか、でき上がった作品ばかりに焦点が当たってしまいます。

 生徒もそうですが、先生もそういう意識になっていて、途中経過や制作プロセスで「何を考えたのか」とか「何を得たか」ということはほとんど関係なく、「いかに見栄えのよい作品を作るか」「いかに完成させるか」というところばかりに集中してしまう。これにもすごく違和感を覚えました。

なぜ中高生向けの「美術」の授業で、「自分なりの答えを見つける力」が育つのか?末永幸歩(すえなが・ゆきほ)
美術教師/東京学芸大学個人研究員/アーティスト
東京都出身。武蔵野美術大学造形学部卒業、東京学芸大学大学院教育学研究科(美術教育)修了。東京学芸大学個人研究員として美術教育の研究に励む一方、中学・高校の美術教師として教壇に立つ。「絵を描く」「ものをつくる」「美術史の知識を得る」といった知識・技術偏重型の美術教育に問題意識を持ち、アートを通して「ものの見方を広げる」ことに力点を置いたユニークな授業を、都内公立中学校および東京学芸大学附属国際中等教育学校で展開してきた。生徒たちからは「美術がこんなに楽しかったなんて!」「物事を考えるための基本がわかる授業」と大きな反響を得ている。彫金家の曾祖父、七宝焼・彫金家の祖母、イラストレーターの父というアーティスト家系に育ち、幼少期からアートに親しむ。自らもアーティスト活動を行うとともに、内発的な興味・好奇心・疑問から創造的な活動を育む子ども向けのアートワークショップ「ひろば100」も企画・開催している。著書に『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』がある。