春夏物仕入れの支払いで、3・4月だけで80億円以上キャッシュアウトしているとみられ、持ち合い株式の売却を進めたり、秋冬物の仕入れを全てストップしたりしており、財務は綱渡りの状況だ。
さらなる手は、資産の切り売りである。
一部報道で、東京・銀座にある三陽の旗艦店「ギンザ・タイムレス・エイト」のビルの売却話が伝えられた。ここはかつて三陽がライセンス契約していた頃、バーバリーの旗艦店だった場所である。
株主総会では、「銀座の一等地にあるビルは一度売却すれば二度と手に入らない。(中略)売却に慎重になるべきでは」と株主からの発言があった。これに対し中山氏は、「不動産や有価証券の流動化を検討している」と答えている。
三陽の執行部は、実際に売却する方向で動いていた。価格は120億円で、売却先は大江氏と関係が近いとされるヒューリックが候補の一つだった。しかし、「仲介を通じて話は来ましたが、弊社としては興味がなく、交渉は一切しておりません」(ヒューリック広報)。不動産の市況が良くないにもかかわらず、既に不動産売却まで視野に入っていることは確かだ。
三陽と不動産には深い因縁がある。17年、杉浦昌彦社長(当時)が、逮捕歴のある知人男性に東京・青山の自社ビルを売却しようとしたことで引責辞任。その後、18年に当時人事総務本部長だった中山氏が主導して約33億円で売却した。「数カ月後に100億円程度で転売されたのは社内の“伝説”」とある社員はぼやく。財務・資本戦略を苦手とする三陽が、銀座の不動産を売ってしまえば、虎の子は本社のある東京・四谷の物件くらいだ。
株主総会で激突したRMBキャピタルは、「ビル売却を経営陣に要求した事実はなく、むしろ売却に断固反対であり、売る必要もないと経営陣に伝えている」(同社の細水政和パートナー)と以前から不動産の売却に猛反対していた。
資産リッチといわれている三陽だが、新型コロナの傷から脱出できなければ、早晩行き詰まってしまう。