1対1対応と秀吉のひも

 かの豊臣秀吉が優れた数学的センスの持ち主であったことはよく知られている。その秀吉がまだ織田信長の家臣だった頃、「1対1対応」を巧みに使って、信長により一層信頼されるようになったというエピソードを紹介しよう。

 ある時信長は調査のため、家臣の足軽たちに裏山の木の本数を数えるように命じた。もちろん足軽たちは殿の命令に従う。しかしすぐに混乱が始まった。木の数を手分けして数えているうちに、誰がどの木を数えたかがわからなくなってしまったからだ。それを見た秀吉は足軽たちに「ここに1000本のひもがある。数は数えなくてよいから、1本ずつすべての木に結んで来い」と言ったそうである。それならできると、足軽たちは再び山に入った。

 1時間ほど経ってすべての足軽が帰ってきたあと、秀吉は残ったひもを集めて本数を数えさせた。仮にその本数が220本なら、木の本数は780本であることがわかる。秀吉は数えづらい木の1本1本を数えやすいひもに1対1対応させることで、見事に裏山の木の本数を数えたのだ。この一件で秀吉は信長からもまた家臣からも、益々一目置かれるようになったと言われている。

 100人の招待客がいる結婚式の披露宴で、全員が揃ったかどうかはひと目でわかる。なぜなら、結婚式の披露宴では通常、招待客の人数分の席しか用意されていないからだ。しかも普通、席は事前に決められているので、欠席者がいる場合、席次表を見れば誰が来ていないかもすぐにわかる。立食のパーティーではこうはいかない。

 また映画館の来場者の数を知りたいとき、館内に入って「1人、2人、3人、……」と数えるのは大変である(途中で移動したり、トイレに行ったりする観客もいるだろう)。でも、そんな必要はない。入り口でもぎったチケットの半券の数を調べれば確実だ。

 このように、現代でも効率よくものの数を数えるために、1対1対応は広く使われている。

(本原稿は『とてつもない数学』からの抜粋です)