天才数学者たちの知性の煌めき、絵画や音楽などの背景にある芸術性、AIやビッグデータを支える有用性…。とても美しくて、あまりにも深遠で、ものすごく役に立つ学問である数学の魅力を、身近な話題を導入に、語りかけるような文章、丁寧な説明で解き明かす数学エッセイ『とてつもない数学』が6月4日に発刊される。
教育系YouTuberヨビノリたくみ氏から「色々な角度から『数学の美しさ』を実感できる一冊!!」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。連載のバックナンバーはこちらから。

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「小石」と「もの」を対応させる

 英語で「計算」を意味するcalculationは、「石」を意味する「calc」と「~すること」を意味する「-ation」からできている。また、「微積分学」を意味するcalculusには腎臓などの「結石」や「歯石」という意味もある。計算や微積分学といった言葉と「石」が関連するのは、人類が数と付き合い始めた頃、石はものの数を数えるための道具だったからだ。

 太古の私たちの祖先は3つ以上の数を数えることができず、3も30も100も「たくさん」と考えていたらしい(※諸説あり)。しかし生活をしていれば、3つ以上の数を数えなければならないシーンはいくらでもあるだろう。

 たとえば何頭かの牛を飼っている農家では、主人の毎朝の日課は、放牧前の牛1頭に対して小石を1つ対応させることだった。同じ小石を放牧から帰ってきた牛に再び1つずつ対応させることで、牛が全頭揃っているかどうかを確認するためだ。このように、大きな数を使えなかった時代の人類が、数えたいものと小石を1対1に対応させていたことから、「石を使って行うこと」が「計算」を意味するようになったと言われている。

 「1対1対応」というのは、集合Aと集合Bがあるとき、Aのどの要素にもBのただ1つの要素が対応し、またBのどの要素にもAのただ1つの要素が対応することを言う。

 たとえば、2015年から始まった「マイナンバー制度」では、日本に住民票を持つすべての個人(未成年を含む)に12桁の別々の番号が与えられている。日本に住民票を持つ人であれば、どの人にも1つのマイナンバーが対応し、またマイナンバーを1つ選べば個人を特定することもできるので、「日本に住民票を持つ個人」の集合と「マイナンバー」の集合は1対1に対応している。

 一方、ある高校の「A組(生徒の数は40人)に属する生徒」の集合と「誕生日」の集合(1年は365日なので365個ある)は1対1対応とは言えない。生徒1人に対してその生徒の誕生日はただ1つに決まるが、生徒40人に対して誕生日は365個もあるので、少なくとも325個の誕生日には対応する生徒がいないからだ。また、1つの誕生日に対して2人以上の生徒が対応する(クラスの中に同じ誕生日の人がいる)こともあり得る(余談だが40人のクラスの中に同じ誕生日の人がいる確率は、約89%と意外に高い。