第5回京都本大賞を受賞した小説『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』の著者・原田まりるさんの小説『ぴぷる』が、WOWOWオリジナルドラマ「ぴぷる~AIと結婚生活はじめました~」として、WOWOWプライムで5月18日より放送されています(全8回)。原作者・原田まりるさんにドラマの感想とこの本にこめられた想いをきいた。

美少女AIと結婚する不思議な未来小説『ぴぷる』がドラマ化。原作者・原田まりるが想いを語る。

twitterの実況で「キャアアアー!」と絶叫されている方もいました。(笑)

―― 『ぴぷる』、のドラマ化おめでとうございます。ご覧になってどう思われましたか?

原田 ありがとうございます。『ぴぷる』は人型汎用AIやAIと結婚した男性、また反AIの医学博士など特徴的なキャラクターが多く出演するSFコメディーなのですが、実写初主演の梶裕貴さんはじめアヤカ・ウィルソンさん、大原櫻子さんなど皆様が独特なキャラクターを活き活きと演じてくださいました。また酒井監督・瀧監督が映像をおしゃれな色使いにしてくださり、少し不思議な絵に仕上がっていました。

―― 『ぴぶる』の物語を、まりるさんから、読者の方に簡単に紹介していただいてもよろしいですか?

原田 男女の人型汎用AIと結婚できるようになった2030年京都が舞台のSFコメディーです。主人公は医療機器の代理店で営業をしている31歳のサラリーマン。ひょんなことから性交渉機能がついた人型AIと結婚するのですが、初期設定を間違えてしまい、性交渉機能が使えず性格が子どもみたいなAIと共同生活を送ることになってしまいます。
そこでAI開発責任者の女性の元へ修理を依頼しに行くのですが、この女性がアスペルガー障害で、共感能力がなく円滑なコミュニケーションを取れず……AIと人間の位置付けが近くなった世界での人間のアイデンティティやポスト・ヒューマンへの倫理観を描いた小説になります。

ドラマはそんな小説からもう一段ハプニングが起こる展開となっています。私もドラマ用の長期プロットを書き脚本協力させていただきましたが、Netflixオリジナル「全裸監督2」などの脚本を担当されている小寺和久さんがより刺激的でコミカルな脚本に仕上げてくださいました。

―― キャストの方が、当て書きのように、イキイキとされてますね。

原田 梶さんは小説との連動企画にあった、「ぴぷる」WEBドラマの時から主人公・摘木を演じてくださったのでもう完璧に自分のものにされていました!
キャストの皆さん脚本を読み込んでくださったこと、また酒井監督がキャラクターについて色々考察してくださっていてそれを現場でキャストの皆様に説明してくださっていたので小説のままのキャラクターになっていたと思います!

―― ここまでで、特に印象的なシーンありますか?

原田 メインキャラに反AI団体で講演をよく行っている医学博士がいるのですが、彼は幼馴染の既婚男性に長年恋心を抱いていて、自宅で意中の男性そっくりのAIと密かに同棲しているというシーンがあります。
第4話で放送されたのですが、視聴者の方的に衝撃的だったようで、twitterの実況で「キャアアアー!」と絶叫されている方もいました。(笑)

―― 小説を書くにあたって、東大の松尾豊教授にAIについて取材されたそうですが、どのような取材をされたのですか? エピソードがありましたら?

原田 松尾先生はEテレで放送されていた「人間ってナンだ?~超AI入門~」のシーズン3でもずっと共演させていただいていたのですが、ブラックユーモアに長けたすごくユニークな方だと思います!(笑)
松尾研究室の研究員の皆様にも取材させていただいたのですが、例えばICチップを人型AIに入れることを想定した場合、現実的な箇所は背骨付近であるとおっしゃっていました。背骨付近は人体の中で曲がりにくいので外部から損傷しにくいとのこと。また肌質などは高級車のようにハイエンド仕様に出来てカスタマイズできるのではないか、また社会実装される場合の金額感などを教えていただきました。
ドラマ版でもAIである「ぴぷる」はディープラーニングによってオーナーの表情を読み取り、そこから相手が望む適切な距離感、立ち振る舞いを学習していきます。けれどもAIなので「最高スコア」を目指すだけで、そこには何の感情も、欲望も、動機付けもない。ただ「最高スコア」をひたすら目指すだけの、知性があるかのように振る舞うシステムです。
システムに人間の代替を投影し、共生を求めた時に、AIは完璧に「振る舞えた」としても、人はそこに空虚や苛立ちを感じてしまうかもしれない。つまり、AIを人間の社会生活に介入させる場合に、人間側の心情も焦点となるという面も描きました。

―― 小説のアイデアはどうやって生まれているんですか?

原田 面白そうなテーマやトレンドがあった時に、そこから話を膨らませますね。
「WeTuber」という動画クリエイターを描いた漫画作品の原作もしているのですが、それもテーマ先行です。こうした感情を書きたい!という激情型の作家さんもいらっしゃいますが、私は一定の感情が長続きしないので興味があるテーマを種としているように思います。
ニー哲の時も「実存主義入門を現代風にアレンジして書きたい!」が原動でした。

―― 小説はどんな時書かれているんですか?

原田 朝起きて考えがまとまってから書いています。あと話が変わってしまうのですが、小説に集中している期間はなぜか食欲がなくなって小食になってしまいがちなのですが、それは一体どういうメカニズムなのか理由が気になっています。(笑)

―― 今後の予定は?

原田 今後も小説を書いていくので構想中です。アニメ原作なども制作なのですが、ジャンルを限定しすぎてしまうと発想が止まってしまう癖があるので今後も枠組みにとらわれずにやっていきたいです!

―― 楽しみにしています。今日はありがとうございます。

原田まりる(はらだ・まりる)
作家・コラムニスト・哲学ナビゲーター
1985年 京都府生まれ。哲学の道の側で育ち高校生時、哲学書に出会い感銘を受ける。京都女子大学中退。2017年、2作目の著書にして初の文芸作品である『ニーチェが京都にやってきて17歳の私に哲学のこと教えてくれた。』で、京都在住の書店員らが選ぶ「京都本大賞2018」を受賞。著書に、『私の体を鞭打つ言葉』(サンマーク出版)『アラフォーリーマンのシンデレラ転生』『ぴぷる』(KADOKAWA)などがある