一方安倍首相は、国論を二分する集団的安全保障や特定秘密法などの重要政策については、選挙で徹底的な「争点隠し」をし、真正面から野党と論戦をしなかった。ところが、選挙に勝利した後、「私のすべての政策が国民の承認を得た」と主張した。都合のいいところだけを切り取って威勢良く主張し、強引に押し通すのは、この当時から安倍首相の常とう手段となってきた。
そして、安倍政権の世論・支持率重視、都合のいい部分だけを威勢よく主張する姿勢を象徴する存在が、加藤勝信厚生労働相だ。現在、新型コロナウイルス対策で陣頭に立っている加藤氏はかつて、「働き方改革担当相」「一億総活躍担当相」「女性活躍担当相」「再チャレンジ担当相」「拉致問題担当相」「国土強靱化担当相」「内閣府特命担当相(少子化対策男女共同参画)」と、実に7つの閣僚職を兼務していた。
これらは、まるで一貫性がなさそうだが、全て「国民の支持を得やすい課題」だという共通点があった。つまり、加藤氏は事実上「支持率調整担当相」であり、首相官邸に陣取って、支持率が下がりそうになったらタイミングよく国民に受ける政治課題を出していくのが真の役割だった(第163回・P3)。
言い換えれば、安倍政権は国民生活に密着する重要な政策課題を解決するために真剣に取り組む気などないのだ。やっているふりを国民に見せて、支持率が上がればいいとしか考えていないのである。そして、この「加藤支持率調整担当相」が兼務した閣僚の1つが「拉致問題担当相」だったことは忘れてはならない。
コロナ対策で「日本モデルの力を示した」
首相として軽すぎる発言
安倍首相は、政治家として重要な課題に正面から取り組んで解決した経験を持たないまま、威勢のいい言葉を放つだけで周囲にチヤホヤされ、首相に二度も担ぎ上げられた。そんなお坊ちゃま政治家は、新型コロナウイルス感染症対策という「未曽有の国難」にあっても、国民ウケや支持率維持しか考えることができないようだ(第237回)。
安倍政権は、さまざまな専門的な情報や知識が入ってきても、「政治決断」をするときに最も重視する基準が結局「国民に受けるかどうか」なのだ。だから、コロナ対策で専門家が連日議論し、「クラスターつぶし」という日本独自の戦略を編み出した結果、一定の成果を挙げているように見えるのに、突如として「アベノマスク」など科学的根拠のない対策がポンと出てくるのだ。
何より驚かされたのは、新型コロナウイルス感染症の重症者数・死者数が欧米諸国と比べて2桁少ないという事実について、安倍首相が「まさに『日本モデル』の力を示した」と力強く述べたことだ。