ならば、「会見をすることで傷つける相手がいる」「会見をすることでさらに被害が拡大する」という理由から、「会見をしない」という選択をしたって何もおかしくない。モラル的には褒められた対応ではないが、人気商売をする人々の危機管理的には「アリ」なのだ。

「悪質タックル事件」の
日大理事長が今も安泰なワケ

 そして、実はこの手は芸能人だけではなく、一部の企業や団体もまれに使うことがある。上場企業などは、株式の問題があるので、説明責任を果たさないということはあり得ないが、政治家や役所、そして教育機関などでは「渡部スタイル」はわりと多い。

 その代表が、日本大学だ。

 アメフト部の「悪質タックル事件」をきっかけに、さまざまなスキャンダルが発覚。その中でも、暴力団との繋がりがあると報じられた田中英壽理事長に対して、マスコミは連日のように追いかけ回し、「説明責任を果たせ」と迫った。日大教職員組合も、田中理事長の辞任を要求する声明を出した。

 しかし、田中理事長はホームページに、騒動を起こしたことを詫びる声明を出しただけで、一切会見を開かなかった。

 専門家たちは、「危機管理の悪い見本だ」と叩いた。日大のブランドイメージを大きく損ねる悪手だ、と。実際、私学助成金もカットされ、このスキャンダル後の日大志願者は大きく減少した。

「そら見たことか」と専門家たちは胸を張ったが、翌年になると志願者数はすぐに持ち直し、騒動前の水準に戻っている。そして、田中理事長は「あの騒動はなんだったのか」というくらい平穏な日々を送っている。

 誤解なきように言っておくが、会見をしなかった日大の対応が正しいなどと言っているわけではない。もし当時、筆者が日大にアドバイスできる立場だったら、会見をすべきだと強く勧めただろう。ただ、会見をせずに逃げ続けたにもかかわらず、「田中体制」の維持はできたし、数々のスキャンダルのわりには志願者数もすんなりと回復している、という現実もあるということを申し上げているのだ。