『組織――組織という有機体』のデザイン 28のボキャブラリー』は、長年マッキンゼーでコンサルタントとして活躍し、マッキンゼー東京支社長の時代を通じて50におよぶグローバル企業の組織をデザインし、退社後は公的組織、東京大学EMP、NPO、ベンチャー企業などさまざまな組織に関わってきた社会システムズ・アーキテクトの横山禎徳氏の新刊です。プロの組織デザイナーとして知られる横山氏の集大成と言える本書では、合理的には動かない人間の集団である有機体としての組織を、いかに戦略が機能する組織にするか、そのポイントをユニークなボキャブラリーとして解説しています。本連載では、そのエッセンスを紹介していきます。

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ボキャブラリーが組織のデザインを発展させる

組織をデザインするのに必要なスキルの一つは、豊富な「デザイン・ボキャブラリー」を持つことである。そこで、デザイン・ボキャブラリーとは具体的には何なのかを知る必要がある。わかりやすさのため、触れることができて目に見える建築を例に取ってみよう。

火事で燃える前のパリのノートルダム寺院を思い出してもらいたい。正面の入口側ではなくセーヌ川のほうから、すなわち、この寺院を後ろ側から撮った写真を見たことはないだろうか。多数の半アーチ状の柱が、半円形の祭壇の背後にある壁を支えているのに気がつくであろう。

これをフランス語で「アルク・ブータン」、英語で「フライング・バットレス」、日本語はあまりこなれていないが、「飛梁」と言う。傾斜した屋根の重力は、それを支える柱を外側に押し出そうと働く。その力を柱にすべて持たせるのではなく、一部を飛梁で支える発明のおかげで、柱を細くすることが可能になったわけである。

柱と柱の間を広く取れるため、そこにはめ込むステンドグラスのサイズを大きくでき、おかげで華やかな光の演出も行えるようになった。それ以前の柱が太くて窓も小さく、当然、屋内も暗く、荘重ではあるが重苦しいロマネスク様式の教会から一転、ゴシック様式になって華麗で華やかな教会に変わったのは、このアルク・ブータンという建築のデザイン・ボキャブラリーを獲得したからであり、まさに画期的なことであった。

建築に限らずデザインの世界には、このようなデザイン・ボキャブラリーが豊富に存在する。そして、ときどき新しいボキャブラリーが発明される。それは突然の思いつきや不連続な発明というより、あるとき、誰かが新しい発想のきっかけをつかみ、何人ものデザイナーが繰り返し試すことによって小さな発見と改良が続けられて、収まりのよい最終形にたどり着く、というプロセスを経てでき上がる。

魅力的なボキャブラリーであれば、多くのデザイナーが活用し、その効果はデザイナーの間で共有される経験として蓄積されていく。経験と訓練を積んだデザイナーはこのようなデザイン・ボキャブラリーを知り尽くし、自由自在に駆使できるだけでなく、たまに自分で新しいボキャブラリーをつくり出すこともできるのである。

組織デザインにおいてもまったく同様である。建築や自動車と違って「さわれず目に見えない」せいか、プロフェッショナルによる組織デザインと素人デザインの違いがわかりづらいが、実際には歴然とした差がある。

建築は「素直でおとなしい」空間をデザインするが、組織は素直でもなく、一筋縄ではいかない人の行動をデザインする。これまでとは違う行動を起こさせるデザイン・ボキャブラリーを豊富に持ち、それを適切に活用できることがプロフェッショナルの能力である。

本気で組織を改革するのであれば、プロフェッショナルな訓練を十分に受けた「組織デザイナー」が必要だ。